第19話:高鳴る期待、彼の決勝へ
遠藤くんが、
インターハイ予選の準決勝で、
あの奇跡のダンクを決めてから、
私の心は、
ずっと、
ふわふわと、
宙に浮いているみたいだった。
まるで、
夢を見ているかのような、
信じられないほどの、
劇的な逆転勝利。
彼の、
ひたむきな努力が、
報われた瞬間。
それを、
目の前で、
見ることができた喜び。
あの日の記憶が、
私の頭の中で、
何度も、
リフレインする。
彼の、
汗と、
達成感で、
輝いていた顔。
リングにぶら下がったまま、
信じられない、というように、
目を見開いていた、
あの姿。
彼が、
私にとって、
どれほど、
大きな存在なのか。
改めて、
痛感させられた。
私たちの女子バスケ部は、
すでに、
全国大会への切符を掴んでいる。
だから、
今は、
全国大会に向けての、
最終調整期間だ。
練習は、
一段と厳しさを増しているけれど、
心には、
喜びと、
大きな希望が満ちていた。
そして、
男子バスケ部は、
いよいよ明日、
インターハイ予選の決勝戦を迎える。
勝てば、
全国だ。
遠藤くんのチームにとって、
この一戦は、
全てを懸ける、
最も大事な試合になる。
放課後。
私は、
遠藤くんとの、
いつもの公園での練習へと向かった。
彼は、
もうベンチに座っていた。
ボールを抱え、
俯いている。
彼の顔には、
疲労の色が濃いけれど、
その瞳の奥には、
燃えるような、
強い光が宿っていた。
「遠藤くん。」
私が声をかけると、
彼は、
ゆっくりと顔を上げた。
少しだけ、
緊張しているように見える。
「先輩。」
彼の声は、
いつもより、
少しだけ、
硬かった。
明日の試合への、
プレッシャーが、
彼にも、
のしかかっているのだろう。
「明日、いよいよ決勝だね。」
私が言うと、
彼は、
小さく頷く。
彼の喉が、
ごくり、と鳴ったのが分かった。
「はい。
絶対に、勝ちます。」
その言葉は、
震えていたけれど、
その瞳には、
揺るぎない決意が、
宿っていた。
彼の背中に、
男子バスケ部全員の、
思いが、
背負われているように見えた。
私は、
彼が、
どれほどの覚悟で、
この決勝戦に、
挑むのか。
痛いほど分かった。
彼が、
このバスケに、
自分の全てを、
懸けていることを。
「大丈夫。
あんたなら、
きっとできるよ。」
私は、
彼の肩に、
そっと手を置いた。
彼が、
少しだけ、
びくり、と肩を震わせた。
彼の体が、
緊張で、
こわばっているのが分かる。
「今まで、
あんたが、
どれだけ頑張ってきたか。
私、
全部見てるから。」
私の言葉に、
彼は、
ゆっくりと、
顔を上げた。
その瞳には、
驚きと、
そして、
安堵のようなものが、
浮かんでいた。
---
その時だった。
彼が、
何かを決意したように、
私を真っ直ぐ見つめた。
その視線に、
私の心臓が、
ドキン、と、
高鳴る。
少しだけ、
震える声で、
口を開きかける。
「あの……もし、明日、
決勝に、
勝てたら……」
その言葉の途中で、
彼は、ハッとしたように、
口を噤んだ。
まるで、
言おうとした言葉が、
あまりにも、
大きすぎたみたいに。
彼の顔が、
みるみるうちに、
真っ赤になる。
耳まで、
真っ赤だ。
「い、いえ……っ!
なんでも、ないですっ!」
彼は、
ぶんぶん首を振って、
焦って、
そう言った。
その必死さが、
なんだか、
可愛らしくて、
思わず、
笑みがこぼれそうになる。
「……っ、何でもありません、先輩……!」
視線を、
地面に落とし、
彼が、
もう一度、
そう、
小さく、
付け加えた。
彼の背中から、
湯気が出ているみたいだった。
---
私たちは、
いつものように、
ボールを弾む。
ポン、ポン、ポン。
ドリブルの音が、
公園に響く。
今日の練習は、
いつもより、
集中力が高かった。
彼も、
私も。
私が彼を止めようとすると、
彼は、
私の予測を超える、
鮮やかなドリブルで、
私を抜き去る。
彼の動きは、
明日への決意を、
体現しているみたいだった。
「(この動き……。
明日、爆発するんだろうな)」
私は、
心の中で、
期待した。
彼の活躍が、
今から、
楽しみで仕方がなかった。
練習を終え、
帰り道。
私は、
彼に、
尋ねた。
「明日、
試合、見に行ってもいい?」
彼は、
少しだけ、
目を見開いた。
そして、
すぐに、
嬉しそうな顔で、
頷いた。
「はい!
ぜひ、お願いします!」
彼の声は、
弾んでいた。
まるで、
子供みたいに、
無邪気な喜びが、
そこにあった。
「分かった。
じゃあ、
明日、
応援してるからね。」
私が言うと、
彼は、
照れたように、
俯いてしまった。
その耳が、
赤くなっているのが、
街灯の光で、
はっきりと見えた。
明日。
彼の、
全てを懸けた、
決勝戦。
私は、
迷うことなく、
その目に、
焼き付けるだろう。
遠藤くんが、
全国への切符を掴む、
その瞬間を。
そして、
彼が、
最高の景色を、
見る、
その姿を。
私にとって、
彼が、
どれほど、
大きな存在なのか。
明日、
私は、
きっと、
改めて、
そのことを、
実感するだろう。
このアオハルは、
まだ終わらない。
明日は、
彼にとって、
最高の舞台になるはずだ。
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