第3話 安らぎの駅と新たな出会い
「ポッポー!」
レイルの心地よい汽笛が、穏やかな朝の森に響き渡る。根源樹のクライマックスを乗り越え、心なしか周囲の「四季の乱れ」も落ち着いてきているように感じられた。激しい戦いの後は、体が鉛のように重い。レイルは人間の姿に戻り、みんなと肩を並べて歩いていた。
ギアスは大きく伸びをする。
「ふぅ、これでようやく一息つけるか?あの化け物、しぶといのなんのってな」
リーニャも疲れた様子で本を抱え直す。
「ええ、本当に手強い相手でしたわ。でも、皆さんの協力がなければ、決して乗り越えられなかったでしょうね」
マキナはタブレットのデータを静かに確認している。
「魔力反応は一時的に安定傾向にあります。ただし、根源樹の活性化自体は止まっていない。あくまで一時的な抑制に過ぎません。本格的な解決策を見つけるには、情報収集が必要です」
ステイシーが不安そうに、マキナの袖をそっと引く。
「情報って……どこで手に入れるの?」
マキナは視線を前方へと向けた。
「この先に、比較的安定した『季節の結節点』があります。そこには、旅人や商人が集まる小さな集落があるはずです」
その言葉に、私たちの顔に希望が灯った。集落!ということは、温かい食事や、ふかふかのベッドがあるかもしれない!
風車の街「ルフト」
マキナの予測通り、やがて視界の先に、小さな集落が見えてきた。木製の大きな風車が何本も立ち並び、風を受けてのどかに回っている。空は穏やかな春の陽光に満ちており、道端には可愛らしい花々が咲き乱れていた。
「わぁ!風車の街だ!」私は思わず駆け出した。
「ここが、『風車の街ルフト』ですわね!文献にも載っていますわ!」リーニャも目を輝かせる。
街の入り口には、木彫りの看板がかかっていた。そこには、この世界の共通通貨である**「クリスタル」**の説明が記されている。
「えっと……この世界の通貨はクリスタル、なんですね!」
私は看板を指差した。
【クリスタル(C)】
* 小粒クリスタル(ShC): 小さな生活品や軽食に使える基本単位。
* 中粒クリスタル(MeC): 食材や簡単な装備品、宿代などに使われる。
* 大粒クリスタル(LgC): 高価な物品やまとまった取引に使われる。
「なるほど、鉱物そのものが通貨になってるのか。なんかファンタジーっぽくていいな!」ギアスが面白そうに言う。
「物々交換が主流だった時代から、魔力を持つ結晶が流通の基盤となった、と記録されています」マキナが補足する。
街の中は、活気に満ちていた。石畳の道には露店がひしめき合い、様々な品物が並べられている。
ルフトでのひととき
「お、おいしそう!」
私は、焼き立てのパンの匂いに誘われ、ある露店の前で立ち止まった。こんがりと焼けた大きなパンの上には、真っ赤なベリーのジャムと、白いクリームがたっぷり乗っている。
「いらっしゃい!『季節の実りパン』だよ!この街の風車で挽いた小麦と、四季の森で採れたベリーを使った、とびきり甘い一品さ!」
陽気な店主が声をかけてきた。
「これ、いくらですか?」
私が尋ねると、店主は笑顔で答えた。
「小粒クリスタル3つだよ!」
ギアスが懐からきらめく小粒クリスタルを取り出し、私に渡してくれた。
「ほらよ、食ってみな。腹減ってんだろ」
「ありがとう、ギアス!」
私は嬉々としてパンを受け取り、一口頬張った。甘酸っぱいベリーと香ばしいパンのハーモニーが口いっぱいに広がり、疲れた体に染み渡る。
リーニャは近くの露店で、色とりどりのハーブや薬草を興味深そうに眺めていた。
「あら、これは『月のしずく草』ですわ!珍しいわね、この季節に咲くなんて……」
彼女は目を輝かせ、薬草の効能について店主と話し込んでいる。その知識欲は尽きないようだ。
マキナは、道具屋のような店で、精密な機械部品や奇妙な形状の地図をじっと見つめていた。
「……この羅針盤、誤差が少ない。興味深い」
彼のクールな表情にも、わずかに知的な好奇心が浮かんでいるのが見て取れた。
ステイシーは、路地裏で小さな子供たちが遊んでいる様子を、優しい眼差しで見守っていた。子供たちが手作りの人形劇をしているのを見つけると、そっとオルゴールを開き、その音色で人形劇に魔法のような効果音を加えていた。子供たちは驚きと喜びの声を上げ、ステイシーの周りに集まっていく。彼女の穏やかな優しさが、その場を温かい空気で満たしていた。
宿での団欒
日が傾き始め、私たちは街の宿屋にたどり着いた。『そよ風亭』と書かれた看板が、温かい光を放っている。中に入ると、香ばしいシチューの匂いが私たちを包み込んだ。
「いらっしゃい!今夜は『森のキノコと木の実のシチュー』だよ!冷えた体には最高さ!」
屈強な体格の宿の主人が、笑顔で私たちを迎えてくれた。
私たちは大粒クリスタル1つを支払い、部屋を取った。テーブルには、温かいシチューと、先ほど食べた「季節の実りパン」よりもさらに大きく、香ばしいパンが並べられている。
「うわぁ!おいしそう!」
レイルは目を輝かせ、大きなスプーンでシチューをすくった。口に運ぶと、キノコの豊かな香りと、木の実の優しい甘さが溶け合い、体が芯から温まっていく。隣でギアスも無言でガツガツと食べている。リーニャはパンを少しずつちぎりながら、シチューの具材について分析していた。
「このキノコは『輝き茸』、でしょうか。魔力を含んでいるため、疲労回復効果があるはずですわ!」
ステイシーは、小さなパンくずを集めては、窓の外の小鳥にあげようとしている。その優しい仕草に、宿の主人もにこやかに目を細めていた。
マキナは食事をしながらも、手元のタブレットで何かを読み込んでいる。彼に尋ねた。
「ねえ、マキナ。この世界の季節が混ざってるのって、昔から?」
マキナはメガネの位置を直し、答えた。
「いいえ。古代の文献によれば、この森はかつて、一つの季節が循環する、穏やかな場所だったとされています。現在の『乱れ』は、ある時期を境に始まったと記録されている」
「じゃあ、やっぱり、誰かが、この森をこんな風に変えちゃったってこと?」私は思わず身を乗り出した。
マキナは小さく頷いた。
「その可能性は高い。そして、その原因は、根源樹の奥深くにある。我々の調査の最終目標は、その『根源』を特定し、この森の季節を取り戻すことだ」
夜が更け、私たちはそれぞれのベッドに入った。ふかふかのベッドは、長旅で疲れた体にとって、最高の贅沢だ。隣でリーニャの寝息が聞こえる。ギアスも豪快な寝息を立てているだろう。ステイシーはきっと、静かに眠っている。マキナは、まだタブレットを見ているかもしれない。
明日は、この街でさらなる情報を集めることになるだろう。私たちは、この世界の謎を解き明かすため、そして、この森を元に戻すために、再び旅立つ。
第3話:安らぎの駅と新たな出会い(続き)
宿での団欒と個性光る仲間たち
日が傾き始め、私たちは街の宿屋にたどり着いた。『そよ風亭』と書かれた看板が、温かい光を放っている。中に入ると、香ばしいシチューの匂いが私たちを包み込んだ。
「いらっしゃい!今夜は『森のキノコと木の実のシチュー』だよ!冷えた体には最高さ!」
屈強な体格の宿の主人が、笑顔で私たちを迎えてくれた。
私たちは大粒クリスタル1つを支払い、部屋を取った。テーブルには、温かいシチューと、先ほど食べた「季節の実りパン」よりもさらに大きく、香ばしいパンが並べられている。
「うわぁ!おいしそう!」
私は目を輝かせ、大きなスプーンでシチューをすくった。口に運ぶと、キノコの豊かな香りと、木の実の優しい甘さが溶け合い、体が芯から温まっていく。隣でギアスも無言でガツガツと食べている。
「んー!おいしい!ねえ、リーニャ!このキノコ、お花の形してる!」
私が興奮して指差すと、リーニャはパンを少しずつちぎりながら、真面目な顔でシチューの具材について分析していた。
「ええ。このキノコは『輝き茸』、でしょうか。魔力を含んでいるため、疲労回復効果があるはずですわ!…ん?あ、本当ですわね!よく見ると、五枚の花びらのような形をしていますわ!ふふ、食べられるものなのに、なんて美しいデザインなんでしょう!」
リーニャはキノコをじっと見つめ、感心した様子で微笑んだ。その顔は、まるで新しい論文の発見でもしたかのように輝いていたが、直後、具材のキノコとパンを間違えて口に入れかけ、「あら?これは硬いですわね……」と首を傾げる天然ぶりを見せた。ギアスがそれを見て、「お前、食いもんくらいちゃんと見ろよ!」と呆れたようにツッコミを入れる。
ステイシーは、自分のシチューを一口食べた後、なぜか小さなパンくずを集め始めた。そして、それを自分の皿の隅にそっと並べている。
「ステイシー、どうしたの?」私が尋ねると、彼女はにかっと笑った。
「あのね、宿の外に、小さな鳥さんがいたの。きっとお腹を空かせているから、少し分けてあげようと思って。私もお腹いっぱいになったから、大丈夫だよ」
そう言って、窓の外を見上げながら、健気にパンくずを集めている。その優しい気遣いは、まるで幼い妹が兄や姉を気遣うようで、胸が温かくなった。宿の主人も、その様子に目を細めていた。
マキナは食事をしながらも、手元のタブレットで何かを読み込んでいる。彼に尋ねた。
「ねえ、マキナ。この世界の季節が混ざってるのって、昔から?」
マキナはメガネの位置を直し、冷静に答えた。
「いいえ。古代の文献によれば、この森はかつて、一つの季節が循環する、穏やかな場所だったとされています。現在の『乱れ』は、ある時期を境に始まったと記録されている」
「じゃあ、やっぱり、誰かが、この森をこんな風に変えちゃったってこと?」私は思わず身を乗り出した。私の天真爛漫な疑問に、マキナは小さく頷いた。
「その可能性は高い。そして、その原因は、根源樹の奥深くにある。我々の調査の最終目標は、その『根源』を特定し、この森の季節を取り戻すことだ」
夜の散策と新たな予感
夜が更け、私たちはそれぞれのベッドに入った。ふかふかのベッドは、長旅で疲れた体にとって、最高の贅沢だ。隣でリーニャの寝息が聞こえる。ギアスも豪快な寝息を立てているだろう。ステイシーはきっと、もう静かに眠っている。
しかし、私はなかなか眠りにつけなかった。窓の外を見ると、満月が森を優しく照らしている。この異世界に来て、列車に変身する体質になって、たくさんの不思議なことに出会った。でも、リーニャやギアス、ステイシー、マキナという仲間ができた。みんなで力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信が、私を温かい気持ちにさせてくれた。
ふと、階下から微かな物音が聞こえた気がした。気になって、そっと部屋を抜け出し、宿の玄関へと向かう。そこには、マキナがいた。彼は相変わらずタブレットを操作しており、その画面には、根源樹の複雑な構造図が映し出されている。
「マキナ、まだ起きてたの?」
私が声をかけると、マキナは驚いたように顔を上げた。
「レイル。眠れないのですか」
「うん。なんか、今日のことが色々とあったから、まだ頭がぐるぐるしてるんだ」
私は笑ってごまかしたが、マキナは私の顔をじっと見つめ、静かに言った。
「……あなたの体内から発せられる魔力反応は、非常にユニークです。この森の根源樹の魔力と、奇妙なほどに共鳴し合っている」
彼の言葉に、私の胸がざわついた。私が列車になったことと、この森の異変。やはり、何か関係があるのだろうか?
「ポッポー?」
問いかけるように首を傾げると、マキナはタブレットの画面を私に見せた。そこには、根源樹の奥深く、まだ誰も到達していないとされる未知のエリアが記されている。
「この森の真の『根源』には、まだ隠された秘密がある。我々は、その秘密の扉を開くことになるだろう」
マキナの言葉は、まるで未来を告げる預言のようだった。明日は、この街でさらなる情報を集めることになるだろう。私たちは、この世界の謎を解き明かすため、そして、この森を元に戻すために、再び旅立つ。私たちの絆のレールは、まだ見ぬ真実の場所へと続いていく。
夜の散策と新たな予感
夜が更け、私たちはそれぞれのベッドに入った。ふかふかのベッドは、長旅で疲れた体にとって、最高の贅沢だ。隣でリーニャの寝息が聞こえる。ギアスも豪快な寝息を立てているだろう。ステイシーはきっと、もう静かに眠っている。
しかし、私はなかなか眠りにつけなかった。窓の外を見ると、満月が森を優しく照らしている。この異世界に来て、列車に変身する体質になって、たくさんの不思議なことに出会った。でも、リーニャやギアス、ステイシー、マキナという仲間ができた。みんなで力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信が、私を温かい気持ちにさせてくれた。
ふと、階下から微かな物音が聞こえた気がした。気になって、そっと部屋を抜け出し、宿の玄関へと向かう。そこには、マキナがいた。彼は相変わらずタブレットを操作しており、その画面には、根源樹の複雑な構造図が映し出されている。
「マキナ、まだ起きてたの?」
私が声をかけると、マキナは驚いたように顔を上げた。
「レイル。眠れないのですか」
「うん。なんか、今日のことが色々とあったから、まだ頭がぐるぐるしてるんだ」
私は笑ってごまかしたが、マキナは私の顔をじっと見つめ、静かに言った。
「……あなたの体内から発せられる魔力反応は、非常にユニークです。この森の根源樹の魔力と、奇妙なほどに共鳴し合っている」
彼の言葉に、私の胸がざわついた。私が列車になったことと、この森の異変。やはり、何か関係があるのだろうか?
「ポッポー?」
問いかけるように首を傾げると、マキナはタブレットの画面を私に見せた。そこには、根源樹の奥深く、まだ誰も到達していないとされる未知のエリアが記されている。
「この森の真の『根源』には、まだ隠された秘密がある。我々は、その秘密の扉を開くことになるだろう」
マキナの言葉は、まるで未来を告げる預言のようだった。明日は、この街でさらなる情報を集めることになるだろう。私たちは、この世界の謎を解き明かすため、そして、この森を元に戻すために、再び旅立つ。私たちの絆のレールは、まだ見ぬ真実の場所へと続いていく。
第4話:風車の街の影
朝早く、私は宿屋の食堂で目覚めた。隣のテーブルでは、ギアスが豪快に朝食を平らげ、リーニャはパンの原材料について宿の主人に質問攻めにしている。ステイシーは小鳥たちにパンくずをあげながら微笑んでいた。マキナは既にタブレットを開き、今日の調査ルートを確認している。
「今日はこの街で、根源樹や森の歴史に関する情報を集めましょう」
マキナの言葉に、私たちはそれぞれ街へと繰り出した。
私は、町の中心にある大きな風車を見上げていた。その風車は、街のシンボルであると同時に、魔力を帯びた風車石でできており、周囲の魔力を集めて街のエネルギー源としているという。そこへ、地元の子供たちが駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、もしかして、あの光る列車のお姉ちゃん!?」
「うん!私がレイルだよ!」
私が答えると、子供たちは目を輝かせた。
「すごい!私たちにも汽笛聞かせて!」
私は嬉しくなって、小さな体で「ポッポー!」と汽笛の真似をして見せる。子供たちは大喜びで、私の周りで跳ね回った。その笑顔を見ていると、この森の異変を何とかしたいという気持ちが、さらに強くなった。
リーニャは、街の図書館へと向かっていた。古びた木造の建物の中には、膨大な量の書物が並んでいる。
「ふむ、この『古の風車と森の記憶』という書物が、この街の歴史について詳しく書かれているようですわ!」
リーニャは埃をかぶった分厚い本を手に取り、夢中で読み始めた。彼女は、根源樹の異変が始まった時期と、街の言い伝えの中に、何か関連性を見つけ出そうとしていた。
ギアスは、街の鍛冶屋へと足を運んだ。彼は自分の工具の手入れをする傍ら、鍛冶屋の主人と、この森に生息する魔物の素材や、それらから作られる武器について熱心に話し込んでいた。
「へぇ、あの氷のゴーレムの核は、こんな風に加工すりゃ、氷に強い武器になるってか!なるほどな!」
ギアスの瞳は、新しい技術や知識を吸収することに喜びを感じているようだった。
ステイシーは、街の広場で、子供たちと手遊びをしていた。彼女のオルゴールが奏でる音色に合わせて、子供たちは楽しそうに歌い、踊る。その光景は、戦いの後の緊張感を解きほぐしてくれる、穏やかな時間だった。
マキナは、街の郊外にある古い観測所へと向かっていた。彼は、朽ちかけた観測機器を修理しながら、過去の気象データや魔力変動の記録を丹念に調べていた。
「やはり……根源樹の活性化には、ある一定周期が存在する。そして、今回の活性化は、その周期を大きく逸脱している。これは、誰かの意図的な干渉か、あるいは……」
マキナの表情が、わずかに曇る。彼のタブレットに表示されたデータには、根源樹のさらに奥、地下深くへと伸びる、不可解な魔力反応の波形が示されていた。それは、これまで観測されたどの魔力とも異なる、異質な波動だった。
「これは……まさか」
マキナは息を呑んだ。その波動は、まるで、根源樹そのものの奥底に、もう一つの「何か」が隠されているかのように見えたのだ。それは、森の異変の真の根源であり、同時に、この世界を覆う大きな陰謀の片鱗を予感させるものだった。
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