ドンロン物語

重位 旧冶

プロローグ

これは過去の物語

これは戒めの物語

これは始まりの物語


日時:????年??月??日

場所:時空の狭間

時空探検機関車、「黄金の疾風」号にて


「9号車輛が呑まれたぞ!」

「早く先頭車輛まで逃げるんだ!」

乗員達が慌ただしく列車内を駆け抜けて行く。

その中に私も居た。

あれは、遥かなる旅を終えた帰路の事であった。


「ダメだ…勢いが強すぎる!」

「前触れも無く…どうして…」

唸る様な轟音、割れる窓硝子、悲鳴…

”それ”は突然に、しかし確実に私達に迫っていた。


「こんな事になるなんて…!」

「助かるのか…?」

「5号車輛まで呑まれた!」

次々と”それ”に呑まれ粉々に砕ける車輛…

そして渦に呑まれていく同士達…

私も息を切らしながら必死で駆けていた。


「出口までもう少しだ!」

「頼む!もってくれ!」

2号車輛も呑まれ、残すは先頭車輛のみだった。

制御を失い、流れに乗って進むだけのこの車輛に全てを賭けていた。


20名程いた乗員も今や数名残すばかり。

しきりにガタガタと揺れる車内の乗員は皆、不安げで

ひたすら祈る者、扉を必死で押さえつける者、車輛の行く先をじっと見つめる者も居た。

中には赤子を抱えた乗員もいた。泣き叫ぶ我が子を必死にあやしている。

彼女はここの乗員…私の弟子の妻で、東洋の島国出身だった。

あの特徴的な黒髪だ。忘れもしない。

残念だが、夫は既に呑まれてしまった様だった。

抱える赤子はついこの間、この列車で産まれたのだ。

名をサラといったか。


そして、遂にその時はやって来た。


「…!扉がっ!」

勢いよく吹き飛んで行く車輛の扉。

それと共に凄まじい風、轟音、窓硝子の割れる音、悲鳴などが一度に聴こえた。


「掴まれっ!」

私は赤子を抱えた母親に手を伸ばした。

彼女は片手で手すりに捕まった状態で今にも呑まれそうだった。


「もうダメッ!この子だけでも……!」

しゃがみながら何とか近くまで来た私に彼女は抱えていた赤子を託した。

次の瞬間、途轍もない衝撃が車輛を襲い大きく揺れた。

私は赤子を離すまいと強く抱き寄せたが、衝撃で車輛内を転がり頭部を強打した。


薄れゆく意識の中、渦に呑まれて行く母親が視界に入った。

ゴゴゴ…という音と共にバリバリという車輛が砕ける音がして暗闇に包まれた。

(嗚呼、私も…)

覚悟を決めた時、眩い光が視界を覆った。

その方向を向こうとした所で私の意識は途切れた…


これは過去の物語

これは戒めの物語

今もこの先も私を苦しめるだろう。そう、未来永劫…


あれから私はあの娘を私の弟子に託し旅に出た。

時々、様子を見に行く。直接は会わないが。

この間、13歳になったらしい。時の流れの速いことだ…。


ここまで一方的に語って名乗りもせずに去る事をお詫びする。

主役はあの娘だからね。あの娘とこの街、ドンロンの人々が織成す物語がどうか

幸多きものであります様に……。


さて、私はそろそろ御暇おいとましようと思う。長々と失礼したね。

それではまた、霧の深い夜に…。

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