第45話日本の現状

「世界大会ですか?」

告げられた言葉に、思わず声が漏れた。御堂会長は静かにうなずく。

「ええ。ゼロフィスの脅威が拡大し、各国は“総力の再確認”を迫られています。その一環として、世界会議と同時に“ハンター実力審査”が行われることになりました」

「大会ってそういう……」

「拒否も可能ですが、日本が“戦力を隠す国”と見られかねない。それは避けたいでしょう?」

面倒な話だ。しかし、出ない選択肢はなかった。

「日本のハンターは?」

「主だった任務は停止し、全員アメリカへ集結します」

「分かりました。日程は?」

「明後日です」

「……早いですね」

「ですから御影さんには、明日の朝一番で渡米してもらいます」

無茶だ。だが、覚悟は決まっていた。

桐生に連絡し、荷造りを始める。

翌日。ホテルに荷物を置き「観光でも」と思った矢先、会長から電話が入る。

『御影さん、すぐ本部に来てください。各国トップが“君を見たい”と』

『……俺、会議に出るんですか』

『はい』

ため息をつきつつ外へ出ると、黒塗りの車が待っていた。

着いた本部ビルは、日本の協会の数倍の規模。会議室の扉の前に立った瞬間、聞きたくもない声が耳に入った。

「——あれが日本の若造か?」

「マモン? 誇張だろ」

「日本はいつも大げさだ」

拳が震える。

——戦場も知らないくせに。

会議室に入ると、二十名以上のトップが円卓を囲み、中央には“ゲスト席”。

御堂会長が説明を始めると、嘲笑混じりの視線が一斉に向けられた。

「彼が本当にマモンと戦ったのか?」

「苦戦しただけでは?」

——黙れ。

心の中で吐き捨てながら、前へ出る。

「マモンは“人型モンスター”の常識外です。知性、会話、戦闘判断……すべて人間と同レベルか、それ以上。そして——」

視線を集め、静かに告げる。

「“マモンはゼロフィスの最上位ではない”」

ざわつき。否定。嘲笑。

俺は、限界まで抑えていた怒りを、言葉に変えた。

「質問を変えます。

——“エーテル吸収型Gift”の流通の裏が誰か。皆さん、本気で考えていますか?」

空気が一変する。

御堂会長が続けた。

「ゼロフィスの関与が高い」

「根拠は?」

「戦ったマモン本人が言いました」

沈黙。

逃げるなら、今だ。

でも俺は、逃げない。

「言いたいことは以上です。明日の大会で証明します。——今日ここで俺を笑った人間が、二度と軽口を叩けないように」

会議室が凍りついた。

退出してホテルへ戻り、部屋の扉を閉めた瞬間、叫んだ。

「なんなんだよ、あいつら!!」

桐生が苦笑する。

「日本の扱いなんてそんなもんですよ」

「言えよ先に……見栄張っちゃったじゃん!」

「どうせ言っても同じです。明日黙らせましょう」

「……それはそうだけど!」

桐生がビールを差し出す。

「飲みましょう。二日酔いだけは勘弁ですが」

「分かってるって!」

ビールを飲み干すと、不思議と肩の力が抜けていった。

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