さようなら、日常 其の四

「そりゃ逃げる。今の灯点頃、ちょっと怖い」

「へえ、そりゃどーも。ちなみになんで俺が怖いかわかるか?」

「……」

 たぶん私が急に居なくなったからだよなあとは思うんだけど、口にしても口にしなくても後が怖い。

「……これは、私はなんて答えるのが正解?」

「知るか」

 ばっさり切り捨てられた。

 と思ったら、また灯点頃は顔を崩して笑う。

「ほんと、お前は変わらないな、物黎」

「……変わったよ」

 灯点頃の言葉に、考えるより先に言葉が出ていた。

 ずきりと、胸の底が傷む。

 変わってる。だって、そのために仮面屋敷を辞めたんだ。

「変わった。……私は、変わってる」

「へえ?」

 灯点頃は、すっと目を細めて私を見下ろした。しばらく私を見てからさらに目を細くして、

「……なるほど、変わったな……」

 と小さく呟く。

 私はパッと顔をあげる。と、灯点頃がいたずらっぽくニヤッと笑った。

「前より可愛くなった」

 すぱっと言う。

「……」

 自分でも気づかないうちにジト目になってるらしい。灯点頃はけらけら面白そうに笑った。

「可愛くなったって言われた女子が向ける目じゃないんだよなぁ」

「そういう噓ばっかりついてると、いざというとき信じてもらえなくなる。やめたほうがいい」

「いざというときねぇ。いざというとき俺と一緒にいるのは、だいたい物黎なんだけど。物黎は俺のこと信じてるだろ?」

「いざというときの灯点頃は嘘は言わないから、信じる。でも、今のは完全に噓」

「嘘じゃないんだけど」

「そういう嘘を言うから信じられない」

 本当にやることなすこと意味が分からない。

 そんなわかりやすい嘘つくのが楽しいんだろうか。

「それはそれとして、物黎、俺がなんで転校してきたか聞かないのか?」

「……灯点頃はなんで転校してきたの?」

 まあ、どうせ仮面屋敷の任務だろうな。

 灯点頃はニッと口角をあげ、指を鳴らす。

「正解」

「そうやってすぐ人の心を読む」

「俺が読めるのは物黎の心だけだよ。他の人間は何考えてんのか全然わかんないから。ちなみに、なんの任務かは聞かないのか?」

「……なんの任務で転校してきたの?」

「いい質問だな物黎!」

 くるっと一回転して、灯点頃は屋上のフェンスにひらりと飛び乗り、腰掛ける。

 さあっと風が吹いて、肩まで伸びた灯点頃の髪を揺らした。


「このあたらよ小学校――今回のミッションは、あたらよ小学校四階の調査だ。一緒にやるか? 『物黎』」


 なるほど、いかにも仮面屋敷が受けそうな依頼だった。



 三階建てのこのあたらよ小学校に、四階なんて存在しない。

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