爺さん星を斬る~剣一筋70年。齢70にして自分が転生者だった事を思い出す。いや神様、チート使えるようになるの遅すぎません?~

まんじ

第1話 爺、覚醒する

私の名はテオ・パーシヴァル。

パーシヴァル侯爵家の次男だ。


家門は兄が継ぐため、弟である私は気楽な物だった。

そんな私の夢は、英雄タケル・ヤマトが残した伝説。

星斬りスターブレイカーの達成だった。


だが12歳の時、スキル覚醒の儀に置いて――


「残念ながら、テオ様にはスキル適性がございません」


―—私はスキルなしを宣告されてしまう。


スキルの力は大きい。

その質と数次第で、剣士としての成功が決まると言って良い程に。


しかし私にはスキルが無かった。


普通なら、夢はこの時点で諦めてしかるべきだ。

例え優秀なスキルが複数あったとしても、星を斬るなどという偉業は果たせるかどうか怪しい。

スキルがないのなら猶更である。


だが私は諦めなかった。

何故なら、その偉業を果たした伝説の勇者タケル・ヤマト自信が、スキルを持っていない存在だったからだ。


努力すれば、いずれ自分にもできる筈。

そう信じ、私は剣の道を進み続ける事を選んだ。


幸いにも、私の生家は侯爵家である。

次男であるため、家督を継ぐ必要もない。

その境遇を生かし、他の人間なら生活のために抱えなければならない労働などのしがらみを無視して剣の訓練を続けた。


―—1年。


―—5年。


―—10年。


月日は矢の様に流れていく。


親からは結婚を勧められたが、そんなものにかかずらう時間はない。

私は唯々、日々剣を振り続けた。


―—20年目。


気をしっかり扱える様になってきた。

この頃から屋敷を出て、山にこもりだす様になる。

自然に囲まれた場所の方が、気を扱う訓練の効率が上がると感じたからだ。


―—30年目。


剣身合一の境地へのきっかけを掴む。

剣身合一とは、剣を自身の肉体の一部として自在に扱える様になる状態だ。


―—40年目。


剣身合一を達成する。

これにより、剣を握らずとも剣を振れるようになった。


剣踊スキルを持つ物ならば、訓練すら必要なく同じ様な事が出来る様だが、そこは考えない事にしておく。


―—50年目。


両親が他界。

私の我儘を支え続けてくれた両親は、二人とも、最後まで自分の生きたいように生きなさいと言ってくれた。

本当に感謝しかない。


訓練に関しては順調と言い難かった。

成長は完全に停滞し、そして自らの限界が見え始めてしまう。


―—58年目。


齢70になった今日、私は剣を置く。

気づいてしまったからだ。


―—私がこれ以上強くなれない事に。


―—そして、人は決して星を斬れない事に。


「しょせん伝説は伝説か……」


タケル・ヤマトが星を斬ったというのはきっと誇張なのだろう。

ひょっとしたら、本人が本当に存在していたかも怪しい。


「ふふふ、この年になってやっと気づくとはな……」


少し考えれば分かる事である。

だが私は頑なに自分の夢を信じた。

愚かな話である。


「とは言え、後悔はしていない」


スキルなしを宣言されてから58年。

この58年間は充実した物だった。

たとえ目指すゴールが虚構だったとしても、それだけは胸を張って言える。


私の生きて来た70年は素晴らしい物だったと。


とは言え、何事も引き際がある物だ。

今以上強くなれないと悟った以上、もはや山に籠って訓練を続ける意味はない。

だから私は剣を置き、山を下りる。


「もういい年だ」


この70年間は、強くなるために全力疾走だった。

なので、残りの人生はゆったりと生きていこうと思う。


「何か新しい趣味でも見つけて――っ!?」


趣味を見つけ、茶飲み仲間でも作ろう。

そんな事を考えた瞬間、突如頭の中にいろいろな記憶が浮かび上がってきた。


私の生きた70年間の中には無かった記憶。

そう、私の前世の記憶である。


「そうか、私は転生者……」


神とのやり取りを思い出す。

私は転生者だったのだ。


「いや!いやいやいや!いくら何でも思い出すのが遅すぎだろう!!」


前世の記憶を取り戻した訳だが、普通そういうのは10代。

遅くても20代ごろには発生してしかるべきイベントである。


それが70歳って……


「いや、流石に酷いだろ。神様」


爺になってから記憶を取り戻すとか。

転生したアドバンテージがほぼ0も良いところである。

むしろこれなら、記憶が戻らなかった方が良かったまであるぞ。


「しかし……つまり私は、チート持ちを目指してた訳か……」


タケル・ヤマト。

少し変わった名前だが、伝説の中の人物なんてそんな物だ。

そう思っていた訳だが、記憶が戻った今ならはっきりと分かる。


彼は日本人で。

そして私と同じ転生者であると。


「チート貰って星を斬ってるんだから、そりゃ努力で届く訳もないよな」


この70年間は充実した物だった。

それは事実だ。


だが、こうして真実を知ってしまうと虚しさが凄い。

勝手に勘違いしていたのと違って、完全に騙された気分になるから。


「はぁ……」


さて、どうした物か。

新しい趣味を見つけて、ゆったり過ごすつもりだった。


だが――


転生者の私には、転生チートがある。

そして前世の記憶も。


そうなって来ると、当然考えも変わろうというもの。


「冒険者になってみるか……」


チート能力で無双する冒険者。

それは転生者の鉄板ムーブで、私も転生後はその動きに倣うつもりだった。


「今更な気もするが、まあ折角だ」


爺さんがチートで無双。

イメージとはだいぶ違うが、記憶が戻って気持まで若返ってしまっている以上、今更茶飲み仲間と趣味に興じる余生を過ごす気にはなれない。


なので、私は山を下りて冒険者になる事を決める。


「ハーレムは……まあ無理だな」


70の爺がハーレムを作るとか、ただのスケベ爺待ったなしである。

イメージが悪すぎる。


まあそもそも、性欲もほぼ無いしな……


とにかく、私は冒険者になるべく山を下りた。


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