第7話

 霜月さんを助けてから一週間ほどたったが、今までとほとんど変わることは無い日常を送っている。


 変わったことと言えば、霜月さんが僕へと視線を送ってくる回数が増えたことくらいだろう。


 誰かに見られてると思い、横を見ると彼女がぼぉっとした顔で僕の事を見ており、気付かれると急いで前を向き、授業を聞いたふりをしていることが多々ある。


 僕の顔に何か付いているのかとも思ったが、トイレで確認しても何もついてないし、恐らく先週の事をまだ引きずっていて何かお礼をとか考えているのだろう。

 

 本当に気にしてないんだけれどな。


「それじゃあ、授業は終わりです」


 そんなことを考えていたら鐘がなり、授業が終わっていた。


 この後はお昼休みであり、いつもなら充希のもとに向かっていたが、今日は生徒会の集まりがあるらしいので仕方なく一人で食べることにする。


 席を立ってクラスから出る。


 こういった時、僕が食べる場所は決まってあそこだ。


 特別棟の校舎裏にぽつんと置いてある長椅子へと腰を下ろして菓子パンを食べることにする。


 一週間に三回は母さんが作ってくれるが、後は基本菓子パンである。


 何故かと言えば、父さんが数年前に亡くなったため母さん今は一人で働いてくれているからである。


 自分で作れよと思う人もいるだろうけれどそこまで料理が上手くないことと、母さんが過保護すぎて、もし僕が料理をしていて、手でも切ったら泣かれるどころの騒ぎじゃないからしていない。


 ぼぉっと空を眺めながら菓子パンを食べていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえたため、横目で見る。


 .....?


 霜月さんが此方へとぎこちなく歩いてくるのが見え、僕が見ていることに気づいたのか、こちらへ来るスピードが一気に速くなった。


「さ、佐々木君」

「は、はい」


 彼女は目の前で立ち止まったかと思えば、手に持っていたお弁当を此方へと向けてきた。


「これは?」

「この前助けていただいたお礼にと思って。毎週、この曜日はお弁当じゃなかったから」


 成程。


 やっぱりまだ先週の事を引きずっていたのか。


 でもそれにしたって、何故僕の昼食事情なんて知っているんだろう?僕は彼女がお弁当なのか、それとも買っているのかすら知らないのに。


「受け取っていただけませんか?」

「....分かりました。でも、本当にこれで先週の事は気にせずにこれから過ごしてください」


 僕は気にしていないし、彼女が僕をこれ以上に気かける義理もない。だって僕は、あくまで自分の為に彼女を助けたし、何事もなく過ごせているし。


「....嫌です」

「え?」

「せめて、毎週、この曜日だけでも作らせていただけませんか?」

「ダメです」


 そんなの全く釣り合っていない。


「僕はあくまで自分の為に助けただけで、霜月さんの為に助けたわけではないんです。だから、その話は助けたことと釣り合いが取れてません。のでその提案を受け入れることはできません」


 僕がきっぱりそういうと悲しそうな顔をする霜月さん。


 彼女は善意でこうしてくれているのに断り続けているから、なんだか僕がひどい奴なんじゃないかと思えてきてしまう。


 毎週あのみんなの憧れの霜月さんにお弁当作ってもらうなんて、他の男子が聞いたらきっと喜んで頷くだろうけれど、僕は別に彼女に特別興味があるわけでもないからな。


 もし毎週お弁当を作ってくれるのなら、その労力に見合った物を彼女に提供しなければいけない。


 何かあるだろうか。


 このままでは話が平行線をたどってしまい、無駄に過ごしてしまう。


 ......僕が、霜月さんの護衛をすることとか?いやでも、あんなことがあることの方がまれな気もするけれど。


「!!。私がお弁当を作る代わりに、佐々木君が下校時に私と一緒に帰ってくれるっていうのはどうでしょうか?それなら釣り合いが取れてるんじゃないかと」


 彼女は閃いたように、僕が考えていたことを提案した。


 まさか同じことを考えているなんてことがあるんだな。


「分かりました。ですが期限を極めましょう」

「期限、ですか?」

「はい。この話はあくまで先週助けたお礼というところから始まっています。だから、期限を決めてきっちり先週の事を清算しましょう。これでお互い気持ちよく助けた、助けられたの関係を終わらせられると思います」


 こんなことを言っているが、一緒に下校なんて面倒だしもっともらしいことを言ってさっさとこの関係を断ちたいと思っているだけだ。


 そうだな。


 キリがいいし、二週間後のテスト最終日までにしよう。


「それじゃあ、テスト最終日で。これ以上の延長はなしで」

「....わかりました」


 よし、後はお弁当を食べるだけ。


「では、どうぞ召し上がってください」

「ありがとうございます、いただきます」


 彼女からお弁当箱を貰い、開けてみる。


 すると、ミニハンバーグ、ポテサラなど僕の好きなものが詰められていた。


 口に運ぶとどれも美味しくて思わず「すっごく、おいしいです」とテンション高めに霜月さんに言ってしまったくらいだ。


 十分もしない内に完食し、おなかがいっぱいになった。


 テストまで二週間もないが、これを食べられるのなら悪くないかもしれない。

 


 


 


 

 


 


 




 

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