第51話 呪術師のネタばらし(2)

「わたしはザルカバーニの外で見つかったそうです。遺跡の発掘隊を砂漠の影が襲い、奪おうとしたところを、ハティムが横やりを入れたと聞いています」

「俺は発掘隊に雇われた遺跡の呪いの解除担当だったんだよ。もう何年前だ? ナドバル系の発掘隊は金払いが良かったぜ」


 発掘隊が見つけた遺跡は小さな祭儀場のようなものだったそうだが、詳しいことは覚えていないとか。

 ともかくそこを砂漠の影が襲い、発掘隊は全滅した。


「あなたなら守れたのでは?」

「んな契約してねぇし」


 コーレの問いに、アホかとばかりにハティムは返す。


「で、脱出するにも一人で砂漠に出ると呪いで死ぬんで、適当なやつを捕まえようかと思ってたんだが、こいつを見つけたわけだ。おかげで砂漠の影を綺麗さっぱり全滅させて、こいつの呪いを奪って起こした、ってのが最初の巡り合わせだな」

「でも、石化はどうやって解いたのですか?」

「あー。それだが、別に呪いを解いたわけじゃねぇからな。俺は呪いを奪ったり押しつけたりしてるだけなんでな」

「どういう……ことです?」


 ハティムは口を引き裂くように笑うと、コーレをじろりと睨み付けた。

 瞳に熱。粘り着く感情。

 どろりとした怒りと憎しみが、泥のようだ。


「呪術師ハティムは、魔女タズハールの呪い袋。呪いを詰め込んだり、詰め込んだ呪いを押し付けたりが得意技ってな。カルフの呪いは解いたわけじゃねぇ。呪いを奪い取ったんだ。放っておけば、そのうちこの呪いで俺は石になり砕け散るだろうぜ」


 そうなる前に適当なやつに押し付けなきゃな、とハティムは言う。

 コーレは顔をこわばらせて声に詰まった。

 まるで、お前に呪いをかけてやる、と言われたみたいだ。


「アカリがいたら面白いことがわかりそうな話ね」


 ともあれ朗報だ。

 ハティムの解呪のやり方なら、シャオクの呪いもなんとかできるだろう。

 問題は、そうすると頭の中にビシャラを住まわせるということだが、そこは何か、考えないといけない。

 わたしの影に住む魚に押し付けたら、なんとかならないかしら?


 まあそれはそれとして、気になったことを一つ。


「カルフは、自分の記憶はどうでもいいの?」


 わたしが話を向けると、彼女はハティムからこちらへと顔を向けて、少し考え込んだ。


「戻らないと、何となく、思うのですが」

「それはそれ。戻るなら戻したい? それとも戻したくない? ここは割と大事なことだから聞いておきたいのだけど」

「……すぐに決められることでは、ありません。ただ……」

「ただ?」


 カルフはしばらく悩んでから、絞り出すように口にした。


「思い出すべきではない……そんな気がします」

「わかったわ。それじゃあ無理は言えないわね」


 カルフの記憶が戻れば石積みの部族のことがかなりわかりそうなのだが、嫌なら仕方ない。その情報はまた別に得るとしよう。

 まあもしかしたら、本人の意に沿わず、わたしもキャラバンも敵も何もしていないのに、不本意ながら記憶が戻ってしまうとかもあるかもしれないけど。


 うん。


 これはもう、ハティム達をなんとしてもキャラバンに迎えなくてはいけないだろう。


「ものは相談なのだけれど、二人とも、わたしのキャラバンに加わらない?」

「いや無理だろう、それ」


 しかし誘いはあっさりと断られてしまうのだった。

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