第75話:真実の部屋と開かずの扉③-第九計画
◆ ◆ ◆ ◆
「……それは、ダメ」
「え?」
「私は、引退まで待つとマキマキに約束してた。だから、ダメ」
「でも。もう、待てない」
彼女は、ポケットから折りたたまれた紙を取り出した。
「この部屋から出れば、今までとまた同じ事の繰り返し」
紙を広げると、魔法陣のような模様が書かれてある。
それ、『タペストリー』の部屋にあった紙じゃないか?
「私はあなたと、ここに閉じこもる。永遠に」
ゆっくりと六島さんはその紙を黒板に貼ろうとして……
扉が突然開き、誰かが飛び込んできた。
冷水さん、か?
「それを使ってはいけません!」
だが、六島さんは黒板に紙を貼り付けて──
◆◆◆
「神代部長! 起きてください!」
冷水さんにゆすられて、僕は目を覚ました。
どうやら、気を失っていたようだ。
辺りを見回すと、まるで昼間のように明るかった。
隣を見ると、六島さんが横になって眠っていた。
「六島先輩は、大丈夫です。でも後から影響があるかもしれません」
僕は立ち上がり、大きく伸びをする。
「とりあえず、ここを出ようか。助けを呼ぼう」
そして、部屋の扉を開けようとしたが、ドアノブが回らない。
押しても引いても、まるで鍵がかかったように動かなかった。
こんな時に噂を回収しないでいいのだけど。
「この部屋は一方通行のエレベーターみたいなものなのですわ。到着すれば、外へ出ることができるようになります」
「エレベーター? そんなふうには見えなかったが……一方通行ということは、戻れないってことか?」
「はい、察しの通りですわ」
「どこへ行くのだろう」
地獄でなければ、いいのだけど。
「行き先はですね──」
チーン
まるで古いエレベーターのような到着音。
「あら、もう着いてしまいましたか。あ、まだ扉は開けないでくださいまし」
冷水さんは、スマホを取り出して電話をかける。
「もしもし、オーサー店長? 冷水です。今までにない想定外が発生しまして……ええ、第九計画の実施を要請しますわ……はい、
なるべく生き残る? 穏やかでなくなってきた。
「部長も、八巻先輩へメッセージをお送りください。彼女、今から東高へ来ようとしていて……巻き込まれると危険なんです」
……お、おう。
「一体何が起こっているんだ?」
「事が終われば全部忘れてしまいますので打ち明けますが、実はですね……」
彼女が打ち明けた内容は、あまりにも現実からかけ離れていた。
驚く間もなく、まるでドリフのコントのセットのように、壁があちら側へ倒れてしまった。
僕達は『動く木』に取り囲まれていて……。
これじゃあ、以前見たB級ホラーじゃないか。
忘れてしまうなんてもったいない。
覚えていれば面白い物語になるというのに……。
◇ ◇ ◇ ◇
グラグラ──HENSAYAの店内が、揺れる。
どうやら、この辺にしては珍しい地震のようだ。
カウンターの奥で電話が鳴る。アンティークの黒電話だ。
それをガタイが良くて色黒禿頭サングラスの店員が取った。
なぜかその店員の名前は『伊集院』のような気がする。
「ハイ、コチラHENSAYA。オーサー、ダ。SAYU、ドウシタ?……ソウテイガイ?……プランNine? オーゴッシュ! マッテロ、キュウジョヲムカワセル……ワカッタ」
オーサー、というのがその『伊集院』の本名だろう。
『伊集院』もといオーサーは電話を切ると、プラチナ・シルバーの髪をした給仕に目配せする。
あの子、親睦会の時に見たな。それから今年の入学式で新入生代表挨拶を務めていた。
すると、その子はこちらにやって来て……
「申し訳ありませんが、都合により今日は閉店いたします。お代は結構ですので、ご自宅へお帰りください。決して東高には行かないでください」
「お代は大歓迎だけど、最後どういうこと?」
「詳しくは申せませんが、決して行かないでください」
ブーッ、ブーッ
わたしのスマホに神代君からメッセージが。
『少し長くなる。八巻さんは四季を連れて先に帰ること。君の計画は丸わかりだ』
あら、なんだか計画がばれてるっぽい。
「──四季ちゃん、計画中止よ。神代君は遅くなるから帰れって」
「りょーかい。お家で兄ぃを待ちます!」
神代君と六島さんの事が少し心配だ。
神代君が心配だ。
神代君……
中学二年から、今までのことが頭に浮かんだ。
ソフトが出来なくなった時、何度も希望を与えてくれたこと。
一緒に困難を乗り越えたこと。
卒業式の日に飲み込んだ言葉。
本当に、六島さんに託してよかったんだろうか。
今更だが、後悔が押し寄せる。
「あれ、どうしたのマキ姉ぇ。涙が出てるよ?」
「あ、アハハハ。わたし、どうしちゃったんだろ」
涙を手で拭った。
わかってる。
わたしの心に押し寄せる波が何なのか、わかってる。
彼から最初の小説を渡された日から、わたしは……。
次回予告:『わたしの部屋へようこそ!』
突然休校となった東高校。八巻が家を出ようとすると、神代が倒れている。
彼は昨日旧校舎へ忍び込んだ事を……。
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