Chapter4 第34話 異世界レースと裏にある陰謀

 異世界転移した。

 ふぉっ!という風が吹いたと思ったら、目の前にはもう異世界の風景が広がっている。

 現実世界では味わうことのできない草の良い匂いが、鼻に染みる。

 「それじゃっ、行こうか」

 という声がしたと思ったら。もう既に異世界レースは、始まっているのだろう。

 だっ!と隣にいた駿裏は、走りだした。

 リクオも、慌てて追いかける。

 「あの…っ」

 息切れがする。まぁ、そりゃそうだ。

 いつも部屋にこもってばっかなのだから。

 「ちょっ!駿裏さん!」

 ズンズンと先を行く駿裏に、リクオは少し待ったをかけた。

 速い。あまりにも速すぎる。

 −−足が。

 止まってくれないんだろうなぁ、と思っていた。が、なんということでしょうか。

 駿裏はちゃんと止まってくれた。

 「どーしたの?」

 なんということだろうか。ヘラヘラとしているではないか。

 疲れた様子が、一切ない。

 「いや…っ、あの…!」

 「少し休もうか?」

 駿裏なりには、優しさを見せたのだろう。それが、逆にリクオには気を使わせてしまっていると思った。

 「いや!いいです!」

 少し強い口調でリクオは、言った。駿裏は目を丸くさせた。

 「…そ。」

 返事は、非常に簡潔だった。

 「なぁに?…なんか、要件とか。あるんでしょ?」

 はぁはぁ肩で、息をするリクオを駿裏は流し目で見た。

 −−さすがアイドル。色気が限界突破している。末恐ろしいというのは、このことか。

 「ハァッ…ハァッ…駿裏さん…、あの…っ…俺の気のせいかもだけど……っ」

 息が整わない。

 汗が止まらない。

 リクオは、思った。

 −−あれ?と。あれ?こんなやばかったけ。異世界って。確か、みんなで来た時はまだ…。

 「大丈夫?リクオ君」

 一瞬、リクオは恐怖を抱いた。目の前にいる駿裏になぜだか。よくわからないが、恐怖を抱いていた。

 「…はい、すみません。」

 だが、話しておいた方がいいだろう。リクオは、腹を括った。

 「なんか。…さっきから…つけられて…ハァッ……ないですか…」

 「………なんで?」

 間髪入れずに、そう言われた。まぁ、少し間があったのは事実だが。

 「え?」

 「…なんでそう思うわけ」

 「ハァッ…ハァッ…よく、わからないけれど…っ気配…とか、感じませんか?」

 駿裏の表情が固くなった気がした。

 −−違和感。圧倒的に違和感があった。

 「へー」

 駿裏の口から発せられたのは、上の空のような空返事だけ。

 「……そーなんだ。」

 ヤケに明るかった。

 ゲーセンにいる時みたいに、テンションあげあげ!みたいな感じでもなく。ただ、自分の興味のある話をされている時の相槌のような。

 そんなテンションだった。

 

 同時刻。

 「あちゃぱー」

 仄暗い部屋にある、一台のスクリーン。そこには、リクオと駿裏の姿が映し出されていた。スクリーンの前には、一台のノートパソコンとソファがあり、そこに少年−−のような人物が座っている。

 年は、15から16。大体リクオと同じくらいだ。

 「何?どうしたの?」

 インスタントコーヒーを、はっきりとした顔立ちの。なぜか白衣を着ている女性がいれる。

 「気付かれた。やっぱ彼アレだね!」

 チュッパチャップスを食べながらノートパソコンをいじくっている少年は言った。

 バフっ!とソファの背もたれに寄りかかる。

 「さっすが、災害級の召喚獣の召喚士様だよッ!…やんなっちゃうなぁ。」

 「…だってよ?どうするわけ?リーダー」

 白衣の女性がさらに奥にある探偵事務所にあるような豪勢な机に足を乗せて組み、リラックスした様子の青年に言った。青年は、金髪とも銀髪とも取れない髪色をしている。

 青年は鼻歌を歌っている。鼻歌は、オペラの『魔弾の射手』の「狩人の合唱」だ。

 青年は、それを優雅に歌っている。

 「今すぐ消しちゃえばー?」

 ゴスロリ調の服を着ている髪を、ポニーテールにしている少女が言った。

 やはり年は若い。17、18歳くらいだ。

 「ばぁーかっ」

 チュッパチャップス少年が真っ先に、ゴスロリ少女に言った。

 続ける。

 「それじゃっ、報酬受け取れないじゃん。」

 「生け捕りだけどさぁっ!」

 ゴスロリ少女も反撃!というように、チュッパチャップス少年に噛みついた。

 −−このまま、喧嘩が始まるのではないか。白衣の女性はそう懸念したが。

 そうはならなかった。

 「はいはい、喧嘩そこまでね」

 リーダーと呼ばれた男が、静止したから。

 「ごめんね、チヅル。僕らの雇い主からの命令で、リライジング・リボーンの召喚士くんは、生け捕りって決まってるんだぁ」

 ゴスロリ少女−−チヅルに言い聞かせるようにリーダーの男は言った。

 男は、ファーコートを取った。

 「えーっ」チヅルは、口を膨らませてかわいらしく講義をする。

 「ほーらっ。ざまぁ」

 チュッパチャップス少年がそんなチヅルを嘲笑った。

 「うるさいっ!」

 「やめなさい」白衣の女性が注意すると2人は、いとも簡単にケンカをやめた。

 「でさでさっ!」

 チヅルが身を乗り出した。

 「隣にいるあの男はどうするの?」

 ワクワクした口調で言った。

 「あー…そうだねぇっ」気のせいか。チュッパチャップス少年は、彼が笑っているように感じた。

 「駿裏は、消しても構わないかな。…まぁ、できれば僕会いたいから。」

 リーダーは、そう言うと「じゃっ」と言ってファーコートを羽織った。

 「ねぇっ!」

 チュッパチャップス少年が言った。

 「狩ってもイイ?」

 「お好きにどうぞっ」

 リーダーは、そう言うと部屋から出ていった。

 バタン、とリーダーは扉を閉めた。

 (駿裏。5年ぶりの再会がこーなるなんて、僕、思いもしなかったや。)

 はぁ、とリーダーは息を吐いた。

 「ごめんね、駿裏。」

 彼は空に向かって話しかけていた。天気は雪。

 雪と彼の金髪とも、銀髪とも取れない髪色が妙に彼を幻想的にさせている。

 ファーコートを羽織っているのもあるが。

 「でも。先に裏切ったのは、君だからさぁ。仕方ないよね?」

 男の顔には、笑みが浮かんでいた。

 状況を楽しんでいる、笑みが。

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