第43話 石鹸作りを見学しよう

 リラから魔法を教わっている間に、ティルは湯船にお湯を入れ終わっていた。

 湯船からお湯があふれそうなぐらいだ。


「魔導具を設置しますね」

 母様が早速魔導具を設置し始める。


「ありがとう。手伝おうか?」

「大丈夫です。簡単な作業なので。それにフィロに手伝わせます」


 母様はテキパキと湯船の横にコボルトが作った魔導具置き場に設置していく。


「フィロ、そっちを持って」

「わかった! 任せろ」

「……コボルトさんたち、大きさはばっちりです」

『やったわん!』『まどうぐのおおきさをきいて、ちょうせいしたわんね!』



 コボルトたちは誇らしげだ。

 やっぱり、コボルトたちはものすごく器用だ。


「……入りたくなるな」

「ねー、はいりたくなる。きもちよさそうな?」

「そうだね、ノエル。そっちの調子はどうかな? 手伝うよ」


 そういって、ティルがこちらにやってくる。

 僕はまだ三割ぐらいしかお湯を溜められていない。


「ありがと! てぃるははやいなぁ」

「大人だからね。それにノエルだって、聖獣の魔法を使えばもっと早いだろ?」

「ん。それでも、てぃるのほうがはやいとおもう」


 聖獣の魔法を使えば、今より倍以上にお湯を溜めるのは早くなるとは思う。

 でも、ティルは三倍以上、僕より早いと思った。


「そっか。だけど、ノエルは、そのうち俺より凄いことができるようになるさ」

「そっかな~」

「それにしてもノエルは魔力が多いなぁ。五歳児とは思えないほどだ」

「そっかな? よんさいのみーしゃも魔力おおいけどな?」


 ミーシャは四歳なのに魔力が多い。

 五歳の僕よりは少ないけど、何十倍も差があるわけではない。


「ミーシャの魔力量も実は規格外の多さなんだよ」

「そうなの?」


 ミーシャ以外のエルフの子供たちもみんな魔力が多いのだ。

 だから、ミーシャが特別多いという感じはしなかった。


「エルフたちはみんな魔力が多いからね。外の世界の魔導師はそうでもないよ」

「そっかー。えるふは魔力がおおいのなー」

「エルフのみんなが魔法を使えたら、優れた魔導師になるだろうなぁ」


 エルフの皆は呪われているので魔法を使えないのだ。


「だから、のろったのなー?」

「そうだろうな。敵はエルフ一族と大賢者が怖かったんだろうね」


 そんなことを話している間にあっという間にお湯が溜まった。

 やっぱり、ティルはお湯を溜めるのは速い。


 お湯が溜まると母様が魔導具を設置し始める。

 とても魔導具の設置を見るのもすごく面白い。


「せっちもおもしろいのなー?」

「面白いかしら?」

「おもしろい」

「ノエルは魔導具師に向いているかもしれないわね」

「そっかー。むいてるかー」


 母様と同じ魔導具師になるのも良いかもしれない。


「ノエル。剣士になるのもいいよ。ノエルには剣の才能もあると思うんだ」


 父様がそう言ってくれる。父様は剣を使うのがうまいのだ。


「そっかな? さいのうあるかな?」

「ああ、枝を振り回しているところを見たが、筋が良い。もちろん練習は必要だが」

「まどうしにして、けんし……まほうけんし? ありかも?」


 魔法剣士は格好いい。魔導具を作れる魔法剣士もいいかもしれない。

 どうせならリラに教わって治癒魔法も習ってもいいかもしれない。


 一人で魔法も剣も治癒魔法も使えて、魔導具も作れたら格好いい。


「まあ、ノエルは好きなことをすれば良いさ」


 そういって、父様が頭を撫でてくれた。


「すきなことなー」

「魔導具師でもいいし錬金術師でもいいし、剣士でも魔導師でもいい」

「ふむふむ~」

「まだ五歳なんだ。ゆっくり考えたらいい」

「わかった!」


 母様が魔導具を設置し終わると、みんなでもう一度全体を確認してまわる。


「ん、問題ないな。いつでも入れる」

「よるごはんたべたらはいろうな?」

「そうだね、でも先に女性陣に入ってもらうか」


 ティルは優しい。見習わなければ。


「のえるはどっちでもいいな? ……あ、よごれたおゆってどうするん?」

「畑に利用する予定だよ。コボルトたちが排水機構も作ってくれていて――」


 石を加工して管を作り排水を池に溜めるようにしてくれている。

 泥浴び場にするとか言われなくて良かった。


「ほら、露天風呂の向こうの地面に穴があいているでしょ?」

「おおー。すなあびばかと思った」

「たしかに、そう見えなくはないな。もしかしたら……泥浴び場にするのかも?」



 それは困る。ガルガルが泥だらけになるからだ。

 どうしようか考えていると、

「にわとりは砂浴びだけじゃなく泥浴びも好きだからね」

「そうなの?」

「ああ、コカトリスたちもきっと好きだよ。それに牛も泥浴び好きなんだ」


 ティルは動物に詳しい。


「うしもどろあび好きな?」

「そうなんだよね。モラクスとモニファスも泥浴びしたいだろうし」


 そんなに泥浴びが好きなものたちが多いなら、反対したらかわいそうだ。

 泥だらけになったガルガルの洗い方を考えておこうと思う。


 泥だらけになったガルガルを洗い場で洗ったら、お湯が足りなくなるかもしれない。


「……なな、てぃる。ゆぶねのお湯でからだをあらうのな? おゆがへるな?」

「もちろん。みんなが入り終わったら、その都度、お湯を補充する予定だよ」

「そっかー。ティルは魔力がいっぱいだから、よゆうだろうけど、めんどうな?」


 もしお湯が貴重だと言われたら、洗い場以外で洗うことも考えたほうがいいかもしれない。


「多少はめんどうだけど、まあ一日一、二回ぐらいだろうし、そのぐらいならね」

「そっかー。ノエルもてつだうな?」

「ありがとう」

「れんしゅうにもなるしな?」


 ガルガルを洗った後は、僕が使ったお湯を足した方が良いと思う。

 いや、ガルガルにやらせてもいいかも。


 赤ちゃんの頃、ガルガルは制御は下手だったけど今は結構うまくなった。

 僕ほどじゃないけど。


 熱湯しか出せないとか、冷たい水しか出せないってことはないと思う。

 温度の微調整は僕がやればいい。


「ふむ、課題はかいけつしたな?」

「何の話?」

「ガルガルをあらうほうほう」

「そっか、ガルガルはでかいものな」


 それから、父様と母様はリラの夕食作りを手伝いに向かった。

 そして、コボルトたちは、夕食まで砂浴び場を作りたいと駆けていった。


『すなあびばもつくるわんねー』『あ、どろあびばつくったら、みずたのむわん』

「ああ、任せて」


 本当に働き者だ。泥浴び場もすぐにできてしまうのだろう。


「俺も夕食の準備を手伝うか。ノエルは子供たちと遊んでいていいよ」

「そだなー。そうしよ…………、あ! せっけんわすれてたな?」

「おお、そういえば石鹸草があるんだったね」


 ミアとジルカが石鹸草をたくさん採ってきてくれたのだ。


 石鹸があれば、泥だらけになったガルガルをきれいにするのも楽になるはずだ。


「リラたちが夜ご飯の準備をしてくれている間に、石鹸を作れるか試してみようか」

「うん。ノエル、つくるとこみたいな?」


 自分でも作れるようになったら、便利だ。


 それから、ミアに石鹸草の使用許可を取って、石鹸草を置いたというミアたちの家に向かう。


「おー、ティルにノエル、どうしたのであるかー? 遊びにきたのであるか?」

「ちょっと作業があってね」


 家の中ではジルカとモニファス、ペリオスとペリーナが子供たちと一緒に遊んでいた。

 コカトリスたちも子供と遊んでいる。

 

 ガルガルは寝ているアオたちに寄り添ってくれていた。


「ジルカ、モニファス、ペリオス、ペリーナ、子供たちと遊んでくれてありがとう」

「なんもなんも! 我も楽しいであるからな!」「も」「ぁぅ」「ゎぅ」

「コカトリスもありがとう。拠点には馴れた?」

『みんないいこだから』『なれた。みんな、ひよこともあそんでくれる』

「ならよかった」


 ひよこはミーシャたちと一緒に眠っていた。

 ミーシャは、もふもふなひよこを抱っこしている。うらやましい。僕もひよこを抱っこしたい。


 ガルガルがそっと起き上がって、僕のところに歩いてくる。


「がるがる、おつかれさまだな? アオ、クロ、シロはおひるねかー」

「ゎぅゎぅ」

「ん? のえるはな? せっけんづくりをけんがくするのな?」

「ぁぁぅ」

「がるがるもみたいかー、てぃる、いい?」

「いいよ。ジルカ、石鹸草はこれであってる?」

「あってるのである」


 籠に入った石鹸草が土間においてあった。


「ジルカもありがとう。石鹸草を採ってきてくれて」

「なんもなんも。石鹸草、ミアに教わって使ってみたのだがー」

「どうだった?」

「いい匂いになったのである。あと、肌がすべすべになったのである。あと、さっぱりしたのだ」

「そっか、それは良かった。確かに石鹸草の性質は石鹸ぽいな」


 ティルは会話しながら、石鹸草に魔法をかけている。不思議な魔法だ。

 よく観察してみたが、多分石鹸草を魔法で調べているみたいだ。


「石鹸作るの?」「石鹸ってなに?」


 年長の子供たちが集まってくる。


「えっとね、体をきれいにする物なんだけど、石鹸草を便利に使いやすくした物かな」

「なるほど?」

「まあ、使ってみたらわかるよ」


 ティルは子供たちと話しながらも魔法で調べ続けていた。


「てぃる、つくれそ?」

「うん。作れそうだ」

「そっか。それにしても……そのまほうべんりそだな?」


 僕も使ってみたい。


「便利だよ。物体の分析以外にも人や聖獣の診察にも使えるし。ノエルは使えそう?」

「すこし、むずかしそだな?」


 見ただけでは真似できそうもない。そのぐらい難しい魔法に見えた。


「あとでおしえて?」

「いいよ。……よし、分析おわり」


 そういうと、ティルは石鹸を作っていく。

 これが錬金術という技なのだろう。

 そして、ティルは錬金術に魔法を使いまくっていた。


「てぃるは、まほうつかいまくるのな?」

「そうだよ、便利だからね」

「れんきんじゅつ? なのか?」

「俺の錬金術のやり方は珍しいんだよ。魔法錬金術と言っても良いかもしれない」

「ほほう? まほうれんきんじゅつ。かっこいい」


 ティルは笑顔で教えてくれる。


「普通の錬金術師は燃料を使って加熱したり、氷で冷やしたりするんだけど」

「なるほどな? そこをぜんぶ、魔法でやるのな」

「そういうこと、蒸留とか攪拌とか成分の抽出も魔法を使えば道具なしでもできるし」

「魔法れんきんじゅつ。べんりだな? ティルはすごいな?」

「編み出したのは俺じゃないよ。師匠と師匠の弟子、つまり俺やカトリーヌの兄姉弟子が考えたんだ」


 やはりティルの師匠は凄い人らしい。


「俺の魔導具の作り方や魔法陣の描き方も実は非主流で――」


 どうやらティルの魔導具作りや魔法陣の描き方も、普通よりたくさん魔法を使うらしい。


「じゃあ、かあさまのまどうぐづくりもめずらしい?」

「うーん。カトリーヌは両方使えるかな」


 母様はティルの師匠から教わった技術と一般的な技術。両方を使っているらしい。


「一応、俺も一般的な手法も学んではいるんだけど、カトリーヌと比べて熟練度が違うからね」

「そっかー」

「魔導具作りは、俺よりカトリーヌの方が上かな」

「ほうほう? かあさま、すごいなー」

「ああ、カトリーヌは凄いよ」


 ティルより凄いのなら、それは本当に凄い。

 会話しながらも、ティルはどんどん石鹸を作っていく。


「おお~」「はやい」

「なんか白いのができた」


 見守っていた子供たちが小さな声で驚いている。


「これが石鹸。濡らしてこすると泡が出るんだけど、それで体をあらうと綺麗になるんだ」

「ほほ~」

「洗った後、泡は水で流すんだよ」

「わかった」


 ティルは子供たちに石鹸について説明した後、コカトリスに尋ねた。


「コカトリスはお風呂入る? それとも砂浴びとか泥浴びの方がいい?」

『砂浴びがいい』『お風呂はあまりすきじゃない。水浴び泥あびの方が好き』

「そっか。コボルトたちが作ってくれているよ」

『たのしみ』『おれいいわなきゃ』


 ティルは石鹸を作り終わると、また魔法をかけ始めた。


「魔法でけんさ?」

「そうだよ。一応皮膚に直接ぬるものだからね」

「なるほど~」

「よし、これで大丈夫」


 ティルの検査が一通り終わった頃、

「みんな! ご飯だよ」

 ミアが呼びに来てくれた。


「ごはん! ミーシャおなかすいた!」

「ぴよぴよ!」


 寝ていた子供たちが一斉に目を覚ます。


「みんな、ご飯を並べるのを手伝ってくれ」

「わかった! てつだう!」


 子供たちは元気にミアの元へと走って行った。

 僕も一緒にミアの元へと走る。



 家を出るとミーシャたちがせっせとお皿をテーブルへと運ぶ。

 僕もみんなと一緒にお皿を運ぶ。


 お皿に載っている料理には見覚えがあった。


「手伝おう……これはオムレツかな? ん? 中に具が入っているのかな」


 外に出てきたティルが料理をみて呟いた。

 僕は知っている。ケチャップライスを卵で包んだ懐かしい料理。


「オ、オムライス……だ」

「オムライス? ノエルは知っているの?」

「……えっと……あの」


 前世で食べたとは言いにくくてどうしようか迷っていると、


「そう! よく覚えていたわね、オムライスよ!」

 リラがそう言ってかばってくれた。


「オムライスってなんだ。オムレツとどう違うの?」

「ご飯を、オムレツみたいに卵で包んだ料理ね」

「ほほう? このご飯はケチャップで味付けしているの?」


 卵の中には赤いご飯が見えていた。


「そうね。メインの味付けはケチャップ。ご飯と玉葱とキノコ、魔鳥肉を混ぜて炒めた物」

「ほう……聞くだけでうまそうだな」

「しかも……はんばーぐまで……ごくり」


 オムライスの横にはハンバーグが添えられている。

 オムライスもハンバーグも大好きだ。


「オムライスとハンバーグは子供が大好きな料理の定番なのよ」


 そういって、リラは微笑む。

 もしかしたらリラは前世の料理を出そうとしてくれているのかもしれない。


 心の中で、僕はリラにありがとうと言った。

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