第40話 人族の魔法

 拠点の外に出ると、瘴気の臭いがした。


「相変わらず臭いなぁ」

「くさいな? でもなつかしさをかんじる……」

「ああ、ノエルは赤ちゃんの頃からからずっと嗅いできたんだものな」

「うん。なつかしさをかんじるけど、かぎたくはないな? くさいし?」

「そりゃそうだ」


 確かに懐かしさは感じる。けど、臭いもんは臭い。

 そんなことを話している間に、太めの魔樹が沢山生えている場所に到着する。


『おさらいする』『ぺろ、もらくすやってみて』


 ペリオスとペリーナがペロとモラクスに促した。


「がうがう~」「もっもっ」


 ペロとモラクスはティルの方をちらちらと見ている。

 ティルに頑張っているところをみてもらいたいのだろう。


「みてるよ。やってみて」

「がう!」


 ペロは尻尾を振りながら一声吠えて、口から魔力で作った刃を飛ばす。

 けっこう太い魔樹が一撃で倒れていった。


「おお、すごい」

「もっもー『みてて』」


 モラクスはしばらく踏ん張ったあと、頭から魔力の刃を放った。

 出た場所はちょうど、将来的に角が生えるあたりだ。

 きっと、大きくなったら角から魔法を放つに違いない。


 モラクスの魔力の刃も、ペロと同じくらい太い魔樹を一撃で倒した。


『ティル、どう? ほめてやって』『ペロもモラクスもうまい』


 指導しているペリオスとペリーナも誇らしげだ。


「見事なものだ。すごいね。魔力操作もうまいし威力も高い」

「わふわふ」「もっも!」


 ティルに褒められながら撫でられて、ペロとモラクスは嬉しそうに尻尾を振っている。

 僕もティルと一緒にほめて撫でた。


「モラクスは魔法を使えなかったんじゃないの?」

『おしえてもらった』

「さっき教えてもらったばかりなのに、もうこんなにうまいのか」


 どうやら、モラクスは魔力の刃の使い方を今日初めて習ったらしい。

 きっと、モラクスはペロよりも赤ちゃんなのだ。


 だから、まだモニファスは魔法を教えていなかったに違いない。


「……せいじゅうは、すごいな?」


 初めてなのにすごくうまい。


「本当にね。凄いよな」


 ティルはモラクスを褒めた後、ペロのことも忘れずに褒める。

 僕もアオを褒めた後には、クロやシロも褒めることを忘れないようにしようと思った。


「ペロも火を吐けることは知っていたけど、魔力の刃もつかえたの?」

「わふわふ」

「おお、さっき習ったばかりなのか。ペロも凄いな」


 ペロは他の魔法は使えたけど、魔力の刃自体は今日初めて習ったらしい。

 その割にとても上手だった。


「ペロはすごいな?」

「わふわふ~」


 改めてティルと一緒にペロを褒めてなで回す。

 更にモラクスのこともなでなでしまくった。


 褒めて撫でまくった後、僕たちも作業に入る。


「みんな、魔法の鞄で運ぶから、どんどん切っていってくれ」

『わかった』『まかせて』「わふわふ」「もっも」


 ペリオスとペリーナが指導を再開し、ペロとモラクスに木を切らせていく。


「がう~」「わふ」

「わふ?」「もっも」


 威力や精度をあげるためのアドバイスを聖獣の言葉で伝えている。

 それを見たティルがぼそっと呟いた。


「聖獣語って便利だな」

「べんりだな? 短くていいし?」


 聖獣語は「わふ!」とか「にゃ!」の一語にいろんな意味を込められるのだ。

 音だけなら同じ「わふ!」でも「右の魔猪から仕留める」だったり「お腹空いたから戻るよ」だったり、いろんな意味を込められる。


 音よりも含まれる魔力の揺れが大事なのだ。


「とはいえ、俺は聖獣語を話せないからな。人族の言葉を使うしかない」

「そだなー」


 そうして、ティルは人族の魔法の説明をしてくれた。


「ノエル、人族の魔法では――」


 どうやら人族の魔法では、基本的に意味のある言葉での詠唱が必須らしい。


「ほうほう? えいしょうかー」

「世界にお伺いを立てるってのが原則だからね。それに――」


 詠唱の説明をした後、ティルは言う。


「まあ、みててよ。魔刃アシエス


 ティルの詠唱は一瞬で、魔刃の精度が凄かった。

 威力はさほどだが、材木集めをしたいのに全力の威力は出すわけがない。

 砕けちってしまうからだ。


「おおー、すごい精度な?」

「ありがとう。これが人族の魔法。猫魔法ではどうするの?」

「みててな? にゃっ!」


 僕はいつも通り魔力の刃を使って、魔樹を倒す。


「ティル、どうだった?」

「威力も精度も十二分だな。すごいよ」

「えへへへ」


 凄い魔導師であるティルに褒められるとやっぱり嬉しい。

 でも、猫魔法は昔から使っているし、ママからもよく褒められている。


 本番は人族の魔法をどれぐらいできるかだ。


「じゃあ、つぎはひとぞくの魔法、つかうな?」

「うん。聖樹の枝を置いてやってみて。その方が練習になるからね」

「わかった!」

 

 聖樹イルミンスールの枝はすごいのだ。

 だから力を試すときには使わない方がわかりやすい。


 気合いを入れて集中する。

 魔法を使っているときのティルの姿を思い浮かべる。


 ティルの魔力の流れや言葉に乗った魔力をできるだけ正確に思い出し再現する。


「……最初は……長めの詠唱」

「あしえす!」


 ティルが何か言っている気がしたが、集中しすぎていたのであまりわからなかった。


 一応、魔力の刃がでた。でも、魔樹は一撃で倒れなかった。失敗だ。


「しっぱいしっぱい。もういっかい――」

「まあ、待て。失敗じゃないよ?」

「む?」

「まさか、最初から魔刃を発動できるとは思わなかった。凄いね。才能があるよ」


 ティルが褒めてくれた。


「えへへ、すごい?」

「すごいよ。発動しただけでなく、ちゃんと人族の魔法だった」

「ほんと。 ひとぞくの魔法だったか?」

「ああ、口でただ魔刃アシエスって言っているだけじゃなかった。ちゃんとした詠唱だった」


 ティルはそう言って頭を撫でてくれた。


「最初は長い詠唱が必要なものだし、初めて発動させられるまで数か月ぐらいかかるんだよ」

「えへへ~。のえるすごかったかー」

「うん、すごい、すごい」

「てぃるはどうだった?」

「もちろん、できなかったよ。短縮できるまで結構かかったかな」


 凄い魔導師であるティルでも最初からはできなかったというのは自信になる。


「ノエルは猫魔法を高いレベルで使えるだろう?」

「うん。猫魔法、ノエルは得意な?」


 ママからもいつも褒められるし、威力はともかく精度はガルガルより上だ。


「だから人族の魔法なんて学ばなくていいと思うかもしれないけど」

「そんなことないな? おもしろいし」

「それはよかった」


 ティルはもう一度頭を撫でてくれた。


「猫魔法と人族の魔法の両方を使えることは、ノエルにとって財産になるよ」

「そっかな? そうだといいな?」

「きっと、そうなるよ」


 そういうと、ティルは少し遠い目をした。


「ノエルは頑張れば、歴史に名を残すことができるかもな」

「そっかー。がんばるな?」

「ああ、頑張るといい」


 やる気が出てきた。立派な魔導師になりたいものだ。

 歴史に名を残すことはどうでもいいとして、立派な魔導師になったらみんなの役にたてる。


「さっそく、もういっかいやってみる! あしえす!」

「おお、さっきよりもうまくなっているよ。もう少し精度を高めたらもっと良くなる」

「せいど? わかった! やってみるな? みてて! あしえす! あしえす!」

「連続で放つのはまたあとでだ。今はゆっくりでいいから精度重視だよ」

「わかった! あしえす!」

「魔力回路を意識することはできているよ。指先ではなく、指の五ミリ先から放つイメージで!」

「うん! あしえす!」


 人族の魔法の練習は楽しかった。

 人族の言葉に魔力を乗せる方法は、少し猫魔法に似ているが、だいぶ違う。


 魔力の動かし方もだいぶ違う。

 猫魔法は背骨が大事だ。だけど、人族の魔法はお腹の奥が大事っぽい。


 ママとティルの魔力の流れを比べると、そんな気がする。


 人族の魔法を練習すると、今まで使ったことのない筋肉を動かすような感じがした。

 その筋肉の動かし方を練習するみたいですごく楽しい。


「あしえす!」

「いいよいいよ~。輝いてるよ!」


 ティルにおだてられながら、僕は人族の魔法で、どんどん魔樹を切っていった。

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