第24話 親同士の会談
巣に戻ると、僕は母様に抱っこされながら、攫われてからのことを話していった。
「えっとね、さらわれたあと、ママにたすけてもらってー」
「そうだったのね」
「あ、おまもりもってるよ! こわれちゃったけど」
僕がいつも持っているお守りを見せると、母様が目に涙を浮かべた。
「かあさま?」
「いえ、持っていてくれたのね。ありがとう。ノエル」
「それはカトリーヌがノエルを守るために作ったんだよ」
父様にそう教えてもらって、お守りを見る。
「あのね、僕、さみしいときはこのお守りをぎゅっとしてたの」
「そうだったのね」
母様は僕をぎゅっとしてくれた。
「それでね! ガルガルが――」
モラクスにじゃれつく弟妹たちを眺めながら、僕は父様と母様にこれまでのことを話していった。
ガルガルとペロは楽しそうに取っ組みあって、じゃれついて遊んでいる。
「それでなー。アオとクロとシロが大きくなるまで、ノエルは面倒みようと思ってるの」
「ノエルは母様と一緒にくらしたくない?」
「くらしたいけど……でも、ノエルがいないとな。アオたち大変だし……」
これまでのことを語った後に、僕は今思っていること父様と母様に言う。
ママが言っていたように、僕もいつかは人里に戻るべきなのだろう。
でも、今じゃないと思う。
ママとガルガルだけで、アオたちを守りながら縄張りを維持するのは難しい。
きっと、ママは余裕だというだろうけど、難しいはずだ。
ガルガルはだいぶ強くなったけど、まだ
「あのな、この辺りって魔物がすっごく強いからな。アオたちはまだたたかえないの」
「そうだね、子猫だものね」
「ガルガルも強いけど……ガルガルだけだと大変だし。ママにも仕事があるし……」
「ノエル。気持ちは嬉しいが、我は強いから大丈夫だぞ?」
「ママが強いことは知ってるけど、ノエルがしたいからな?」
やっぱりママは大丈夫と言ってくれる。だが、それは僕を気遣ってのことだ。
ママ一頭ならともかく、アオたちを守ってお世話をしながら仕事をこなすのは無理だと思う。
僕がいなくなったことで、アオたちに万が一のことがあれば後悔してもしきれない。
「それにいるみんのむすめたちも……そだてないとだし…………」
「いるみんってなんだい?」
父様が笑顔で尋ねてくれる。
「えっとな、いるみんはイルミンスールっていって聖樹なんだけど、ノエルしか育てられないの」
「それはすごいね」
「うん。聖樹がはえていると、瘴気がうすくなってー。魔物もうまれにくくなるの」
「そんな凄い聖樹を育てられるのかい? ノエルはすごいね」
「えへへー」
父様に褒められて、つい笑顔になってしまう。
「だからね、ノエルはまだやることがあるからね? 腐界に残ろうと思うの」
「そう、ノエルはそう思うのね」
「…………うん。ごめんね? ノエルもとうさまとかあさまといっしょに暮らしたいけど……」
「うん」
「…………やっぱり、まだやることがあると…………おもうの」
抱っこしてくれている母様が暖かくて柔らかくて、僕はとても眠かった。
「そう。そうなのね。しっかり考えられて偉いわ」
「……えへへ……うん……ガルガルも……まだノエルがいないとだし…………」
そして、いつの間にか僕は眠ってしまった。
夢の中で、僕は父様と母様、兄様と、攫われる前の家にいた。
そしてママとガルガルと、アオとクロとシロもいて、美味しいご飯を一緒に食べていた。
◇◇◇◇
ノエルが寝た頃、ガルガルとペロも遊び疲れて眠りはじめた。
モラクスに遊んでもらっていたアオたちはノエルより先に眠りに落ちている。
「来客をもてなしたいが、あいにくと何もないところだ。これでも食べるが良い」
シルヴァは聖樹の実をフィリップ、カトリーヌ、ティルの前に置く。
「ありがとうございます。見たことのない木の実ですね」
「ノエルが言っていた聖樹の実だ。ノエルが種から育てたのだぞ。食べてやってほしい」
「これが、ノエルの育てた……ありがとうございます」
「……なんと。ノエル頑張ったわね」
フィリップは聖樹の実を大事そうに見つめ、カトリーヌは優しくノエルの頭を撫でた。
そして、シルヴァはカトリーヌに抱っこされて眠っているノエルの匂いを優しく嗅ぐ。
「改めて自己紹介しよう。我はこの辺りを担当する聖獣の守護者である」
シルヴァを含めて大人たちは、親子の再会と会話を何より重視していた。
他のことは後回しにしており、互いの自己紹介もしっかりとはしていない。
「聖獣の守護者とは一体? 先ほどまとめ役とおっしゃっていましたが……」
カトリーヌに尋ねられたので、シルヴァは尻尾をゆらしながら答える。
何がわからないのか、尋ねてもらえると、シルヴァとしても説明がしやすいのだ。
ノエルの母親だけあって、カトリーヌは非常に聡い人族だとシルヴァは考えた。
「わかりやすいよう人族の世界の役職に当てはめるならば、領主のようなものだ。まあ、違いも多くあるし、別物だが、領主と考えれば理解しやすかろう。……もっとも、この辺りの聖獣たちは我らを残して全滅してしまったのだがな」
「魔王種か?」
ティルが魔王種を知っていることに、シルヴァは驚いた。
腐界の領主というのは伊達ではないらしい。
「おお、ティルは魔王種まで知っているのか。その通りだ。魔王種というのは――」
シルヴァはフィリップとカトリーヌの為に解説する。
魔王種とは、稀に生まれる非常に強力で凶悪な魔物だ。
魔王種自体はスズメバチの女王のように前面には出てこず巣に引きこもることが多い。
だが、濃厚な瘴気を放ち、魔物を生み出し続ける。
倒さなければ、腐界が広がってしまうし、聖獣たちの手に負えなくなる。
無理矢理にでも配下の魔物を倒し、巣に乗り込んで魔王種を討伐する必要があった。
「ガルガルの父母も、我の家族も犠牲になった。そうしなければ倒せなかったのだ」
シルヴァは当時の激しい戦いと、亡くなった家族たちを思い出しながら語る。
「残ったのは赤子だったガルガルだけだ。そんなある日、空からノエルが落ちてきたのだ」
ノエルを運んでいたワイバーンが、魔物にやられて墜落。
シルヴァはその魔物を倒し、ノエルを保護した。
ノエルは可愛くて、神が自分に宝物を与えてくれたように感じたものだ。
「それからは本当に楽しい日々だった。ノエルは物覚えが良くてな……」
シルヴァが語る楽しい思い出をフィリップとカトリーヌは静かに聞いていた。
語り終えたあと、シルヴァはフィリップとカトリーヌ、ティルにも自己紹介を促した。
フィリップは剣聖と名高い剣士かつ、辺境伯家の嫡子。
カトリーヌは、天才と名高い魔道具師とのことだった。
「俺はフィリップの戦友で、カトリーヌの兄弟子だ。妹弟子がいたことは知らなかったが」
最後にそう言って自己紹介したティルは笑う。
「ティルは領主と言っていたな? 人族はいつから腐界の領有を主張するようになったのか?」
「王国は本気で領有しようとはおもってないさ。なにせ人族は腐界には住めないからな」
「ならばなぜ領主に?」
「昇進にみせかけた左遷だよ。俺は平民ながら魔物討伐で無視できない功績を挙げたんだが――」
シルヴァも一目見ただけで、ティルの強さには気がついていた。
その実力を生かして、魔物を討伐して功績を積み重ねていたようだ。
それこそ、平民から貴族に取り立てられるに充分なほどの功績をだ。
だが、ティルを嫌っている上司は褒美をあげたくない。
ましてや貴族になどしたくない。
だからこそ、拒否されることを前提にして腐界の領主の地位を与えたということらしい。
「拒否したらそれを口実に罰を与えられるしな」
「そうか。……人族も大変なのだな」
聖獣で良かったとシルヴァは思う。
そして、これから人族の間で暮らしていく愛しい
「まあ、俺は腐界をなんとかしたいと思っていたから渡りに船だったよ」
そう言って、ティルは笑った。
大人たちが互いの事情と現状を説明し合った後、シルヴァはノエルの匂いを優しく嗅いだ。
「……ノエルは人族ゆえ人と暮らすべきだ。そう赤子の頃より言い聞かせていたというに」
そう言いながらも、シルヴァは嬉しさを感じずにはいられなかった。
ノエルが自分やガルガル、アオたちのことをここまで思ってくれていたのだ。
嬉しくないわけがない。
「ノエルが残ると言ってくれた。それだけで、我は充分幸せだよ」
そういって、シルヴァはフィリップとカトリーヌを見る。
「ノエルは人族で、幼子だ。愛してくれる親の元で人里で暮らすべきなのだ」
それはシルヴァの偽りなき本心だ。その方がノエルは幸せになれるはずだと思っている。
シルヴァがじっとノエルの両親を見つめていると、ティルが言う。
「……ここは奥地だけあって魔物の強さも並ではないはずだ。ノエル抜きで大丈夫なのか?」
「幼子一人いなくなったところで――」
「建前はいい。子供は寝ているからな。本音で話そう」
そういうと、ティルは声を潜める。
「ノエルは強い。急に背後に現れて杖を突きつけられたとき、一瞬死を覚悟したほどだ」
優れた魔導師であるティルは、ノエルの強さに気づいたようだ。
「大人でもノエルほど強い魔導師はそういない。本気の俺でも苦戦するだろう」
「……だがな。我も育ての親として、子に難しいとは言えないのだ。わかるだろう?」
シルヴァは声を潜めて、フィリップとカトリーヌを見ながら言う。
「わかります」
「ええ」
フィリップとカトリーヌは同意してくれた。
シルヴァは自分自身の力不足で、子の幸せを邪魔したくなかった。
だが、ノエル抜きで、この地と子猫を魔物から守るのは難しいのは確かだ。
それでもシルヴァはノエルの幸せとアオたちの安全のどちらも犠牲にするつもりはない。
近隣の聖獣の協力を得る必要があるだろう。
他の子供のいる聖獣たちにアオたちを保護してもらうことも考えなくてはいけない。
魔王種が現れない限り、シルヴァ単独ならば、この地を守ることは可能だからだ。
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