この世界が剣を選ぶなら、俺は異端でいい
ふにえる
その日、俺は"間違った"武器を手にした
第1話 邪魔者
「ねぇ、聞いた? アルバート様、教会の選定で剣術スキルを得られなかったらしいわよ。あんなに期待されていたのに、まったく情けない話だわ」
「当主様も呆れていたわよ。剣術家であるフォン家の名誉を汚したの? 名門なのに、まるで恥さらしだわ」
「いつもの稽古でも、イザーク様に負けるだけじゃなく、また一度も斬れなかったんですって? もう見ていられないわ」
「やっぱり追い出すのが一番じゃないかしら。あんな無能を家に置くなんてありえない」
「そんな剣もまともに扱えない奴が当主になるなんて、嫌すぎる」
俺の耳に、小さく聞こえてくるメイドたちの怨念。我慢できず、その場を逃げるように部屋へ戻った。
私はフォン・アルバート。名門剣術家・十四代目フォン・クリストファーの息子で、次期当主候補。しかし、肝心の剣術には才能がなく、三つ年下の弟・イザークにも及ばない有様だ。
立てかけた剣を手にすれば、はっきりとわかる。これは俺の手に合わない。拒絶されているかのように、剣先が何も語りかけてくれない。
怒りと悲しみが沸き起こり、俺はたまらずベッドに腰を落とす。そんなとき、ガチャリ――と扉がゆっくりと開いた。
「ご、ご主人様? 大丈夫ですか? また何か言われたんですか?」
「あぁ、リアか。別に、大丈夫だ」
「嘘です、ご主人様。すごく悲しそうなお顔でした」
振り返ると、そこにはリア――俺の専属メイドがいる。瑠璃色の髪と赤い瞳。十五歳とは思えぬ愛らしさと、人懐こい明るさを兼ね備えた娘だ。
正直、気丈に振る舞ってはいるが、大丈夫なはずがない。稽古という名の拷問。上達の見えない剣術。周囲の冷たい視線と言葉。――努力だけが空回りしている日々が、俺を押し潰していく。
何とかリアを安心させようと、俺は言葉を返す。
「俺が悪いんだ。父上の期待に応えられず、剣術スキルも得られなかった。得られたのは槍術のスキルだけ。誰だって失望するさ」
「そんなこと……! ご主人様がそんなふうに自分を責めるなんて! 私はずっと、ご主人様を信じています!」
「ハハ、ありがとうな」
その笑顔を見て、また不安が胸をよぎる。リアは幼い頃から俺に懐いていてくれており、心から信頼してくれている。そんな彼女すら裏切ってしまうのではという恐れに、手が震えた。
俺はもう片方の手で震える腕を押さえた。リアに気づかれたら、また余計な心配をかけてしまうから。
無理に笑顔を作って言う。
「今日はもう大丈夫だ。リアは……自分の部屋に戻ってくれていい」
「ちゃんと相談してくださいね?」
「また、明日だ」
「……はい、明日ですね」
そう言ってリアはそっと部屋を後にする。ドアが閉まる音を聞いてから、俺は不貞腐れるようにベッドに顔を埋め、そのまま眠りに落ちた。
********************
「おい、起きろ」
「~っつ!」
頭にゴンと重い衝撃が走った。
状況がつかめないまま起き上がると、父上が仁王立ちでこちらを睨みつけている。
慌てた俺は、ベッドから飛び起き、辛うじて地面に片膝をついた。
しかし、今日は父上の様子が少し違う。いつもは冷たい視線か怒りに満ちた視線だったのに、今日はどこか嬉しげだ。
「お前に用がある」
「よ、用事でしょうか?」
「ああ。詳細は後で説明する。早く支度しろ」
「は、はい…」
それだけ言うと、父上はそそくさと部屋を出て行った。
珍しい。普段、父上は俺に頼みごとなどしないし、稽古以外では話しかけてもこない。
そんな中、俺の頭に一つの考えが浮かんだ。――追放かもしれない。
追放されたら、もうフォンの名を名乗れない。剣もまともに使えず、商売経験もない俺は、ただの青年に成り果てる。
焦る俺だが、そんなことを決められる立場ではない。
とりあえず最悪を想定し、持てる限りのものを持っていくことにした。
少しでもマシな剣、非常食、回復ポーション、財産――異空間魔法にごちゃごちゃ詰め込み、急いで父上の部屋へ向かう。
部屋に入ると、父上は椅子に座り、何かの書類にペンを走らせていた。
一段落ついたのか、ハァとため息をつくと万年筆を置き、俺の方を見た。
「アルバート、今からお前には“死の森”へ行ってもらう」
「死の森ですか!?」
“死の森”とは、パーティー冒険者ランクA、もしくは単独でランクSの者でなければ踏み入れられない、文字通り死と隣り合わせの危険地帯だ。
巨体の魔物、群れで襲ってくる獣、人型の魔物──例を挙げれば枚挙に暇がない。
要するに、父上は俺に間接的に「死ね」と命じたようなものだ。
追放を覚悟してここに来たが、まだ甘かった。
しかも父上は、どこか嬉しそうだ。どうやら、俺は最後まで“邪魔な存在”だったらしい。
「わかり、ました」
「ああ、頑張って来い」
俺は俯いたまま答え、静かに父上の部屋を後にした。
これが、本当に“父と交わす最後の言葉”になる――そんな嫌な予感に背筋が冷たくなる。
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