幽霊としか話せない私が、殺人事件を解く話

@Ruca0429

第一章 死んだ彼女と、私の放課後

 私は、教室で話したことのある人の名前を、三人しか言えない。

 一人は担任の飯田先生。内申のことを気にして、たまに私にも話しかけてくる。

 二人目は給食当番で牛乳をぶつけてきた男子。名前は……えっと、たしかカネコ。違ったかもしれないけど、気にしてるのは私だけだろう。


 そして三人目は、死んだ女の子だ。


 彼女の名前は、七瀬みこと。

 いつも笑っていた。誰とでもすぐ仲良くなって、授業中でもスマホを触ってて、それでも先生に怒られないタイプの子。

 明るくて、頭もよくて、スタイルもよくて、たぶん……私とは、住んでる世界が違った。


 そんな彼女が、一週間前に死んだ。


 屋上から飛び降りた。

 遺書もなかったらしい。だけど先生たちは「悩んでたらしいよ」「家のこともあったらしい」とか、勝手に理由を作って納得した。

 そして数日後には、クラスに“いつもの日常”が戻った。


 みことの机は片付けられ、彼女の話題は誰もしなくなった。

 悲しんでるふりをしていた子たちも、今ではもう別のグループで笑ってる。


 私は、何も言えなかった。ただ静かに、いつも通りの「透明人間」として教室の隅に座っていた。


 でも——


 あの日、放課後の教室で、

 私は“死んだはずの七瀬みこと”に、再び会った。


 窓際。夕焼けに染まる教室の光の中に、彼女は立っていた。


 制服は乱れていなくて、髪はふわりと風に揺れていた。

 顔は見えにくかった。でも、声は、はっきりと聞こえた。


 「久しぶり、月原さん」


 私は一歩も動けなかった。声が出なかった。

 心臓の音だけが耳にうるさく響いていた。


 「そんな顔しないで。……こわくないでしょ? 私、月原さんには、ちゃんと話したかったんだ」


 彼女はゆっくりと笑った。生きていたころと変わらない、穏やかな笑顔だった。


 でも、それが余計に、こわかった。

 だって、彼女はもう、この世の人じゃない。

 そのはずなのに、そこに“いる”ことが、当たり前みたいに見えることが、こわかった。


 「ねえ、私……死んだって、みんな言ってるよね。飛び降りたんだって」


 私は、小さくうなずいた。


 「……でもね、私、あの日……自分から飛び降りてなんかないんだよ」


 その瞬間、教室の空気が変わった気がした。

 音が消えた。外の風の音、遠くのチャイム、何も聞こえない。

 ただ、彼女の言葉だけが、私の耳に残っていた。


 「ねえ、月原さん。……私、殺されたんだよ。」


 私の喉が、ぎゅっと締まった。

 口が動かない。涙が出そうなのに、うまく出てこない。心だけがぐらぐらと揺れていた。


 私が初めて、誰かと“ちゃんと話した”のは、

 それがこの世にいないはずの彼女だった。


 ——幽霊としか話せない。

 そんな私に、彼女は助けを求めてきた。


 それが、この物語の始まりだった。

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