第8話『私の兵隊さん』

『急募』

「初心者大歓迎!縦のものを横にするだけの簡単なお仕事です」転職サイトの一文が目に留まった。「働き方は自由、スキルを活かして高収入。完全歩合制」「使い慣れたご自身の道具でOK。ナイフ支給制度アリ」悪くない。若い頃のバイト経験だってある。「急募、殺し屋」か。「履歴書不要」なのも助かる。



『私の兵隊さん』

念願の兵士付き一戸建てを買った。庭はなく木は門柱脇に一本がやっとの小さな家だ。オリーブかミモザが良かったが派兵されたのは金木犀だった。少し残念だけど秋にはギリースーツやヘルメットに差す枝に良い香りの花が咲く。一日の終わりに太い幹と化した銃を握る腕に触れる。おやすみ、私の兵隊さん。



『蛙の手、そして白い腹』

蛙の手みたいでしょう、そう言って女は私の手を両手で包んだ。確かに女の手はひんやり冷たく湿っていて言いたいことは理解できたが多分こんな風に蛙に手を握られた経験がないから似ているか分からない。昔、授業でした解剖で蛙は私の手を握っただろうか。思い出せない。白い腹を裂いた事は覚えている。



『影を盗む』

放課後、あの子の席に座る影を見つけた。きっと忘れて帰ったんだ。畳んでランドセルにしまうと、あの子が戻ってきた。「影を見なかった?」「知らない」背中のランドセルがカタカタ鳴って慌てて教室を飛び出した。涙ぐむ彼女も見ていたいけど影も泣いているのか確かめたくて夕暮れの街を家へと駆ける。



『遺影』

好きな子の影を盗んだ。出来心とはいえ返す気もなかった。影の紛失が悪い影響を与えたのか快活な子が塞ぎ込みジシンなさげに見えた。その彼女が事故で亡くなった。ふらふらと車道に出て影みたいに踏まれたらしい。影を探していたんだろう。悲しいけど僕には影がある。今夜もあの子の遺影を抱いて眠る。



おまけ

『胸の空き地で』

胸の空き地でこっそり飼っていた猫が死んだ。一回り小さくなった猫を抱き泣いた。朝、泣きながら目覚めた。起きてきた息子と娘の目が赤い。僕らは黙って食事を済ませ表に出た。今日は町内一斉清掃の日だ。ご近所さんと挨拶を交わす。みな言葉少なく泣き腫らした目を隠すように黙々と掃除に取りかかる。

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