第5話縄文幽霊
『そして僕は着古した夫を今も着ている』
ベランダに干した夫と妻が風で妻だけ飛んでいってしまった。乾いた着古した夫を着る僕と妻だった女が向き合う夕げの食卓はどこかぎこちない。朝より美しい女に狼狽えつつ妻を新調してはと提案すると妻は出ていってしまった。あの日、僕も夫を脱ぐか二人で新調しようと言っていれば何か違っただろうか。
『燃えないゴミの日』
ある日、郷愁を誘うメロディにのって空飛ぶ円盤がやって来ると何やら落としていった。それは地球上に存在しない未知の金属で「さては友好を兼ねた技術供与では」と考えられたが製法も加工技術も一切が不明だ。円盤は第一、第三水曜日の朝に定期的に訪れては荷を落とすが未だコンタクトは取れていない。
『縄文幽霊』
柳の下に女が立っている。もちろん幽霊だ。僕が子供の時からいるし、隣の爺さんも物心がついた頃にはそこにいた、というから、そのまた昔からいるのだろう。女は麻の服に鹿の毛皮を纏っている。縄文幽霊と僕らは呼ぶ。余程深い恨みがあったのだろうが「そんなの忘れちゃったわ」と女はからからと笑う。
『あの夕暮れの交差点で私は』
交差点でぼんやりしていると今日も妻が迎えにきてくれた。帰るとご飯の用意が出来ている。お腹がいっぱいな気がして食事をする妻をただ眺めていた。ふと仏壇の前の写真を見た。母の笑顔の横に伏せた写真立てがある。あれは、と聞くと、気にしなくていいのよ、と妻が笑う。そんな毎日を繰り返している。
『蜘蛛の糸』
公園のベンチに腰かけていると目の前に蜘蛛の糸が下りてきた。はっきりとは思い出せないが、一度や二度、蜘蛛を助けたこともあっただろう。糸の強度は十分そうだし周りに人もいない。さて、どうしよう。ここが地獄だったのも驚きだが天国がここより退屈なのも確かだろう。風に揺れる糸を前に私は唸る。
おまけ
『君の』
大きいとか小さいとか、そんなのどちらだっていいよ。それが君のだ、という以上に重要なことがあるの?なんなら数すら問題じゃないよ。1つでも2つでも4つでも構わない。2つなら僕の手と同じで丁度だし、1つだったら大事にするだろうし、4つなら……きっと楽しいだろうな。あっ、おっぱいの話ね。
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