3.寮内宝隠し
放課後、藤乃さんと一緒に椿荘へと帰った。せっかく初めてふたりで下校できたというのに、緊張してほとんど話なんてできなかった。
「依恋と胡箱はついさっき商店街へ買い物に出かけたぞ」
寮に帰ってみれば、リビングでゲームをしていた那須さんにそう言われてしまった。
「那須さん、こちらは藤乃さん。僕のクラスメイトだよ。……藤野さん、彼女は那須奏多っていって、この寮の住人なんだ」
「初めまして。赤津藤乃です」
藤乃さんは完璧な微笑みを那須さんに向けた。
「…………うむ」
那須さんはチラッと藤乃さんを見たあと、すぐに目をゲーム画面に戻した。
どうやら人見知りを発揮しているようだ。
薬の実験台という名目がないときは、人と関わるのが苦手になってしまうらしい。
「隠し場所について説明するよ」
「お願いします。チケットはちゃんと持ってきたよ」
藤乃さんは可愛らしい四つ折り封筒をカバンから取り出した。紺色のベースに、星や星座がデフォルメして描かれているデザインだ。
「封筒用意してくれたんだ」
「うん。チケットは二枚あるから、バラバラになったら困るでしょう?」
たしかに。そこまで気が回っていなかった。
「ありがとう。隠し場所だけど、個人の部屋と男子浴場と、このリビング以外の場所だったらどこに隠してくれても大丈夫だよ」
「そうなんだ。個人の部屋って……」
「ネームプレートがあるからすぐに分かるよ。ネームプレートがかかってない部屋は空き部屋で……あ、201号室はネームプレートがないけど那須さんの部屋なんだ。202号室とつながってるんだよね。だから、それだけ気をつけてくれたら大丈夫。ほかはネームプレート通りひと部屋ずつだから安心して」
「それじゃあ、ひとりだけ二部屋なんだね? やっぱり、長く住んでるとお部屋も拡張しないといけなくなるのかな?」
藤乃さんは首を傾げた。
長く――といっても、那須さんの居住歴はここ二年ほど。風見さんや鷹宮先輩よりは短いはずだ。藤乃さんの言葉を聞きとがめ、那須さんも怪訝な顔をする。
「とりあえず、寮内をひと通り見てこようかな」
僕らの疑問をかき消すように、藤乃さんは柔らかな笑顔でそう言った。
「どうぞ。僕も隠し場所知らない方がいいから、ここで待ってるよ」
この寮にいるのはみんな、僕が隠し場所を知っていたら直接問い詰めてきそうな人たちだ。それなら対策として、はじめから知らないほうがいい。
「それじゃあ、行ってくるね」
藤乃さんは愛らしく手を振った後、寮内へと入っていった。
「デレデレするな、バーカ」
那須さんが悪態をつく。
「し、してないよ」
「ふん、これだから凡人は嫌なんだ。恋だのなんだの浮かれるなんて非合理的だぞ」
「だから、浮かれてないって」
まだ僕は恋に現を抜かせる状態じゃない。
「……運命の女の子とやらを探してると聞いたら、普通の女はドン引きだろうな」
那須さんが悪い笑みを浮かべる。
「そのことなら、藤乃さんはもう知ってるよ。前に真宙先輩がバラされた」
「ほう、そうなのか」
大げさに驚いたような顔をする。
「それで引かないということは、あいつは普通の女じゃないってことだな」
「……そう思う?」
問い返すと、那須さんは虚を突かれたように目を瞬いた。
「なんだ、情けない顔をするな。ボクは単に思ったことを言っただけだぞ」
そんな顔していただろうか。まったく、顔に出やすい性格っていうのは嫌になるな。
この調子じゃ真相にはたどりつけない。
僕は両頬をぱんぱんたたいて、気合いを入れなおした。
そんな僕を、那須さんはあきれ顔で見ていた。
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