第5話

 市場で買い集めた食材をいろいろ試した結果、いくつかの候補が出来上がった。この辺りの人たちに受けがいい商品の判断がつかないので、明日から「新作のお試し」ということで来店客に小さくカットした物をサービスして反応を見てみようと思う。

 バルドラに聞いても「美味しいですね」と同じような感想ばかりで、こういう時にはあまり役に立たないんだよね。護衛としては一流だと思うし、給仕としても様になってきたというのに。


 例の竜の実は「洋ナシのタルト」の一部に使われることになった。

 持ち帰って半分に切ってみると、私の予想に反して中は白色。果物だと認識していたので、もう少し色が付いていると思っていたので意外だった。

 木の匙で触れた感じは柔らかく滑らかで、開けた直後のアイスクリームみたい。味は濃厚なナシのようで、サッパリした香りをしつつも若干くどく青っぽい。食べなれない味で、個人的には単体よりも何かと合わせた方が良さそうな気がしたので、洋ナシと合わせるようにしたわけだ。

 今になって思えば、触感からいって完熟はもう少し先だったのかもしれない。バナナやメロンを想像すると、食べ頃の物ってもっと柔らかいことが多いし。そうするとまた違った感想になるかもしれないので、また次の休業日には市場であのおじさんを探してみたいと思う。幸いカフェの休みは元々多めに設定してある。


 

 日が暮れた頃、最後のお客さんを見送ると、タイミングを計ったかのようにバルドラから「お疲れさまでした」の声と共に紅茶が差し出される。


「ありがとう。バルドラもお疲れ様」


「朝方話に出た冷凍の魔道具はどうしますか?」


「あー。そんな話したんだったね。忘れてたよ」


 カフェを開店して一か月と少し経ったことによって、我々にも少しずつ余裕が出てきた。今回、新作を考え始めたのもそれが関係している。

 いくつか頭の中で思い描いたメニューがあるのだけれど、そのうち何個かは冷凍庫や氷を必要とする物だった。なので「冷凍の魔道具が欲しい」とバルドラとの会話でもらしていたっけ。


「厨房のスペース的には問題なさそうだけど、お金の方がね。あれってたしかかなり高いよね?」


「そうですね。魔道具は全体的にどれも高額ですけど、冷蔵ではなく冷凍となると更に高くなるかと」


「フォビアよりも魔道具が流通しているウルクでさえそうなんだもんね。我慢するしかないかぁ。食器や棚なんかのカフェの備品を揃えるのにもずいぶんと使ってしまったし」



 フォビアを脱出し、このルバンダの町に辿り着くまでに仲間たちが用意してくれて、バルドラによって管理されていた資金もそれなりの額使ってしまっていた。

 ご多分に漏れず、この世界も場所によってはずいぶんと治安が悪い。魔物なんかはまだマシな方で、やっかいなのは狡猾な人間たち。要するに、盗賊、山賊、それに詐欺師といった者たちだ。

 なので初めて足を踏み入れた土地ともなれば、安全のためにもそれなりの宿泊施設を選ぶこととなる。


 更に言えば最近は口調など多少マシになったとはいえ、バルドラは未だに私に対して『聖女様』という態度を崩していない。となれば、扱わせる物や食事に対しても気を使ってくる。そうなるとどうしてもお金が掛かってしまうわけだ。

 私は「そこまでしなくていい」と伝えているんだけど、頑なに譲ろうとしない部分があるんだよね。その辺り、異世界人である彼らの価値観なんだろうから受け入れるしかない。


 幸いなことに、建物自体はとある縁によって譲っていただけたので、費用は掛かっていない。

「とある縁」と大げさにいってみたが、私の回復魔法で治療した相手がこの地域の領主であるクリスタイン家の人間だったというだけなのだが……。



 長々と語ったけれど、要するにあまりお金に余裕がないので冷凍の魔道具を買えないというわけ。

 またどこかにお金持ちの縁者で、怪我や病気で苦しんでいる人がいれば大きな収入を見込めそうだけれど、さすがにそんなことを願うほど腐った性格はしていない。

 それに回復魔法を頻繁に使うということは、いずれ噂が広まりまたフォビアでの活動の様なことを強いられる状況になりかねない。ここを治めるクリスタイン家は恩を感じて今のところ噂を広めるようなことになっていないが、住む場所を提供することで領内に留まることを願っているようだし、結局は少なからず誰かの思惑に巻き込まれて行くことになる。

 なので、スキルを使うことは出来るだけ控えた方がいいというのは理解しているつもり。


 ただ困っている人を見ると放っておけないというのは、日本人というか親の教育の賜物であるしなかなか抜けきらない。

 現実世界でも異世界でもそうだが、特別な力を有したとしてもそれを利用しながらの生活というのは、存外に難しい。

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