第34話 フリーゼとイーリャンは恋敵?
家出してから2週間。
なんとなく、平穏が少し戻ってきていた気がした。
イーリャンの部屋での生活は安定してる。
『勝手に本を増やすな』とか『片付けしろ』とか『ミースはどんだけ甘やかしてきたんや』とか、お小言はちょくちょく言われるけど、そんなのは適当に聞き流せばいい。
イーリャンって面倒見がいいから、なんだかんだでやってくれるし。
結構いい関係を築けている。
そう思っていた。
でも、それはわたしの勘違いだったのかも。
「もう十分やろ。さっさと出ていきぃ」
「どうしたの、突然」
「突然も何もあるかい。もう我慢の限界やっ!!!」
あ、やばい。
糸目を開眼させてる。これは本気で怒っているやつだ。
「わたし、何かした?」
「何もしないのが問題やろがいっ!! おまえさんは居候やろ!? 少しは家事を手伝わんかいなっ!!!」
え?
そんなこと?
それっておかしくない?
「最初、イーリャンが言ったんじゃん。何もしなくていい、って」
「それはあんさんが、あまりにもどんくさかったからやっ!」
どんくさいって……。
別に、練習すればできるようになるし。たぶん。
「大体、共同生活がこんなに長くなるとは思わんかったんや。……はあ。過去の自分をぶん殴ってやりたいわ」
「お金なら多少あるけど」
「そんなんいらへんいらへん。お金は大好きやけど、友情の方が大事や」
意外と義理堅いというか、感情優先なのが不思議。
だけど、そういうイーリャンは嫌いじゃない。
「ほら、わかったらさっさと荷物をまとめい」
「他に行く場所ない」
ミースのところに帰るのは論外。
フォレッタのところなら『出ていけ』なんて言われないだろうけど、その代わり地獄のように可愛がられる地獄が待っているだろうし。
他に行ける場所なんて、あるわけない。
「あんさん昨日、魔法学校から使者が来てたやろ? 返事を保留してたよな?」
「……」
たしかに、使者がきていたし、魔法について色々と語り合ったりしてた。
イーリャンはうんざりした顔をしてたけど。
魔法学校についても色々と聞けて、結構有意義な時間を過ごせたと思う。
「使者を送られるぐらいに期待されてるんや。応えてやったらどうや?」
つまり、このアンファンスを離れて、魔法学校に行けってことか。
「そうすれば、フリーゼは魔法学校で研究に没頭できるやろし、ウチは平穏な日々が戻ってくる。それでお互いウィンウィンや」
「…………」
たしかに、理想の選択肢に思える。
魔法学校に行けば、もっともっと魔法について学べる。
わたしと同じぐらいの天才も、ううん、もっと上の人だっていっぱいいるだろうし、学びもいっぱいあると思う。
最高の環境。
でも、そこには――
「……行かない」
「なんでや?」
「……言いたくない」
「ミースと離れるのが、そんなにイヤなんか?」
なんでそんな話になるの。
今はミースなんて関係ないじゃん。
「……別に、ミースのことなんてなんとも思ってないし」
「この村に引っ越してきて、一緒に住んでいる時点で、そんなわけないやろ」
「嫌いじゃないだけだから。同居する上で都合がいいだけ」
「それだけで共同生活が続くと思ってるんか?」
「実際に続いていたから」
「……ちっ」
イーリャンが舌打ちなんて珍しい。
「ミースのことが好きなんやろ?」
「だから、違うって」
なに、その苦々しい顔。
「あ~~~~~~。そうかいっ!!! 腹立つなぁ!!!」
びっくりしたっ!
いきなり叫んで、何をしたいの、イーリャン?
「あんさんは『好き』を重く見過ぎているんや。好きなもので頭をいっぱいにしてないといけない。心を捧げないといけない。そうじゃないと、好きって言ってはいけない。そう思っているんやないか?」
「なんでそんなに踏み込まれないといけないの」
わたしのミースに対する気持ちなんて、どうでもいいじゃん。
いくらイーリャンでもムカつく。
「ウチはミースのこと好き。女として、男のミースが好きやったんや」
…………え?
「気付いてなかったやろ? ウチは夜な夜な妄想してるんやで? あんさんと寝てるベッドだって、ミースと2人で寝るためにダブルサイズにしたんや」
「……そうだったんだ」
「ほんまに、鈍感なところはそっくりなんやから」
「鈍感じゃないし」
「せやな。鈍感やなくて、人間に興味がないだけや」
人間に興味がない、か。
ちょっと前なら適当に流せたけど、今聞くと、心が締め付けられるみたいに痛い。
「ウチはなぁ、ミースが幸せになるなら、ただ見守るつもりでいたんよ。だけど、フリーゼのことを見ているとイライラする」
イライラしてるって口にしながら、なんでそんなに泣きそうな顔してるの。
「自分の気持ちをわからないくせに、ウチが欲しかったものを持ってんや。ふぜけるんやないぞ……」
「…………」
気持ち、か。
好きとか嫌いとかはわからない。
人を好きになる感覚っていうのが、どうしてもピンとこない。
恋なんてまったく理解できない。
人に対する評価なんて、話しやすいかどうかとか、魔法について詳しいかどうかぐらい。
ミースに対しては?
なんでわたし、誕生日パーティーでミースに怒って家出したの?
魔法学校に行くことを決めつけられたぐらいで。
その場で否定すれば終わったことなのに……。
なんで今も顔を合わせるのが気まずく感じてるの?
ミースへの気持ち。
わたしの正直な感想。
別にずっとミースのことを考えていたいわけじゃない。
ミースと一緒にいるとドキドキすることもなければ、キュンとすることもない。
でも、ミースと一緒にいて楽しいって思ってる。
これって執着? 愛着? もしかして、親子愛?
ううん。そんなわけないよね。
この気持ち、なんなんだろう。
――って、いきなり音が。
「うおっ! びっくりしたぁ。なんやこの鐘の音」
「……これって、魔王軍」
「あれか!」
魔王軍が襲来してきた時の
わたし、行かなくちゃ。
「フリーゼは冒険者じゃないやろ? 別に行かなくてもええやろ」
「でも、行かないとといけない気がする」
「あーもー。そうなったらあんさんはテコでも曲げへんからなぁ!」
さすが幼馴染。わかってる。
「ウチもフォレッタと合流してから向かうわ」
「わかった」
「絶対に無茶はするんやないぞ」
「うん」
無茶、か。
ミースだったら、アンファンスを守るために無茶するよね、絶対。
なんとなくだけど、戦場に行けばミースに会える気がする。
言葉を交わせなくても、顔だけでも見たい気分。
そうすれば、わたしの気持ちが少しはわかるかもしれない。
……よし。準備ができたし、行こう。
ミースは覚えているかな。
魔法が好きになったのも、人のために魔法使いになりたいって思うようになったのも、全部ミースのおかげなんだよ。
ミースに対する感情なんてわからないし、理解する必要性も感じない。
だけど、ミースはわたしの人生の中で、かけがえのない
それは紛れもない事実だ。
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