第32話 領主様の休日
酒場近くの裏路地にて。
えー……。
私は今、女装したイケメンと一緒に夜風にあたっています。
私、どういう顔をすればいいのかな?
普通に興奮するシチュエーションではあるんだけど、今の私って魔法で女体化している状態なんだよね。
ある意味、私も女装している状態というか……。
女装よりも上の段階にいるというか……。
女装男を前にして、どういう感情を抱けばいいのか……。
いや、領主様すんごく美人だよ?
10人中50人は振り向きそうなぐらい。
そういえば、こんな美人さんがいたのに、なんで食堂で騒ぎにならなかったんだろう。
「存在感を薄くする魔法を使っていたからね」
なるほどー。
リーたんもよく使っている魔法だ。
まあ、それでも私はリーたんのことを見逃さないんだけどね!
「本当に仲睦まじいね」
照れるなー。
「フリーゼさんは元気かい?」
あ。もちろん聞かれるよねー。
「あー……。それがその……。今はケンカ中といいますか、家出をされてまして」
かぁ~~~。
他人に自分の口で伝えると、精神にくるなぁ。
特に相手が領主様だもん。
「……もしかして、魔法学校の件が?」
「あ、いえ、そういう訳ではなくてですね……」
たしかにきっかけは魔法学校の件だけど、根本的な原因は違うと思う。
なんとなくだけど。
それに、ここで『はいそうです』なんて言ってしまったら、処刑されて首チョンパ! になるかもしれないし。
「ミースさん、あなたは貴族のこと、どういう風に見てるんだい……?」
「ギロチン大好き人間ですが」
「……」
はっ!
早速失礼なことを言ってしまったっ!
だって、孤児院時代にいた頃は、本気でそう思ってたし……。
週に1回は広場でギロチンしてたんだよ……?
しかも、その領主の顔がすごくご満悦だったのを、今でも悪夢として見ちゃう。
「えっと、すごいところに住んでたんだね」
「はい。西の方の村でしたので」
「……あそこか。色々と噂は聞いてる」
まあ、今は幸せだからいいけどねー。
「あっ。すみません。自分の話ばかり」
「いや。聞いていて楽しいから」
「……ありがとうございます」
普段そんなことを言われないから、ムズかゆい。
うるさいとかやかましいとかはよく言われるんだけどね。
実際に領主様は上機嫌そうだし、少し攻めても許されるかな?
「領主様、今日は饒舌ですね」
「ちょっとお酒が入っているからかな」
たしかに頬が少し赤くなっていて、色っぽいわね。
「それに、ミースさんの前だとあまり緊張しないんだ」
「あー。相性がいいってことですか」
「そうかもしれないね」
領主様と相性がいいなんて、なんだか自分も少し特別になった気分!
まあ、ただのいち村民にすぎないけど。
それにしても、1回会っただけなのに、こんなに信用してもらえているのはなんでだろう?
「ミースさん、実はあなたと会うのは、これで3度目なんです」
え?
会ったのって、今と領主邸に出向いたときだけじゃないの?
もしかして、その前に会ったことがあるってこと?
いつ?
どこで?
「キノコ山で」
「え、あの時!?」
仲直りキノコを採りに行った時だよね?
全然記憶にないんだけどっ。
「あの時の僕は変装をしていたから」
変装?
今の女装みたいな感じ?
むむむ。
いくら変装していても、こんなに見た目のいい人を見逃すわけないんだけど。
「これならわかる?」
あっ。
突然目つきが鋭くなった!?
魔法みたいだけど、顔の筋肉をうまく使っているのかな?
「あ――――っ! 勇者パーティーと一緒にいた人っ!」
「正解」
はあぁ。
そうだったんだ。
全然わからなかったなー。
キノコ魔人を倒すときに助けてくれた人の中にいたんだっ!
でも、なんで勇者パーティーと一緒にいたのかな?
「領主として道案内をしてたんだ。勇者様は大事な
「なるほどです」
「仲直りするために命を懸けている姿を見て、」
「……恥ずかしいです」
「精いっぱいなのはいいことだよ」
精いっぱいかぁ。
確かにいつも全力を出しているけど、それでもミスしちゃうからなぁ。
リーたんが家出したのも、私のミスの積み重ねだろうし。
「辛いの?」
辛いかぁ。
確かに辛いんだけど、普通の辛さとはちょっと違う気がする。
「なんていうか、フリーゼがいなくなった瞬間、自分の人生じゃなくなった気がしたんです」
意外と私、リーたんに依存してたんだなぁ……。
「すばらしいことですね」
「そうですか?」
お世辞じゃない?
「僕も似たような気持ちがあるから」
「領主様がですか?」
「このアンファンスを守るためなら、なんでもしたいと思ってるから」
この顔、本気みたい。
すごい覚悟を感じる。
「どうして、そんなにアンファンスが好きなんですか?」
「そうだね」
あ、すごく穏やかで、嬉しそうな顔になった。
「僕は王都での政争に負けて、ここにやってきたんだ」
政争って、勢力争いとかのことだよね。
お掃除の事じゃないよね。
「僕はこんな性格だから、王都の雰囲気が苦手だったんだ。騙し合いは当たり前。暗殺におびえ続けないといけないし、常に肩肘を張らないといけなかったし」
想像するだけでも、私には耐えられなさそう。
「でも、このアンファンスに来て、落ち着くことができたんだ。穏やかで、ちょっと不思議で、飽きが来ない」
うんうん。
かなりわかるなぁ。
「その中でも、ミースさんはこのアンファンスの良さが詰まったお人だと思っています」
「……嬉しいです」
ちょっと思ってた。
私、このアンファンスで生まれたわけじゃないから、ちゃんと馴染めているのかな、ここにいていいのかなって。
でも、領主様にここまで認めてもらえたんだから、大丈夫だよね。
――って、領主様の服装だよ!
この謎、聞いてなかったっ!
「その疑問に答える前に、ちょっと提案なんだけど」
「なんですか?」
「ここでは落ち着かないから、僕の部屋に来てくれない?」
えっ。
ええ!?
えええええええええええええええ!?!?!?
私、少し前まで男の子だったんですが!?
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