第2話 これ、僕が悪い?
その日の僕は、前世からの夢を叶える覚悟を決めていた。
そのために、血がにじむような修行に身を投じてきた。
雨の日も、風の日も、サメ魔物が降ってきた日も休まずに素振りを繰り返して、とうとう会得したんだ。
現代日本において最強の武器であった
「ねえ、フリーゼ、ちょっといい?」
あれ、ドアを叩いても返事がない。
まあ、いつものことだから気にしないけど。
生まれた時からずっと一緒にいるし、無言の意味だってなんとなくわかっちゃう。
「入るよー」
お、フリーゼ、窓際で本を読んでたんだ。
フリーゼの読書姿ってとっても絵になると思う。
まだ12歳なのに知的な雰囲気にあふれているからなのかな。
ちょっと釣り上がった目元はプリティーだし、青くて長い髪も、日差しでキラキラ輝いている。
いかにも魔法使いみたいな服装もよく似合っているし、見ているだけで脳細胞が癒されていくぅ……。
だけど、僕がフリーゼの読書姿で一番好きなのは、表情だ。
いつもは無愛想な顔とか無表情ばっかりしているけど、本を読んでいる時は違う。別人みたいに、いろんな表情を見せてくれるんだ。
いきなり驚いたと思ったら、次の瞬間には笑っていて、一瞬目を離すと今度は難しい顔をしている。
これが愉快痛快な冒険劇だったら理解できるんだけど、難しい魔法の本なんだよなー。
一体、フリーゼの頭の中はどうなっているんだろう。
でも見ていて飽きないし、すごくかわいい。
……おっと。
見惚れている場合じゃなかった。
顔をキリッと引き締めて、声を掛けないと。
「フリーゼ、大事な話があるんだ」
「へー」
えっと、フリーゼさん、魔法の本を読むのをやめてくれませんか?
頑張って顔を引き締めてる僕がバカみたいじゃん。
「ちゃんと目を見て、話しを聞いて欲しいんだ」
「んー」
「ちゃんと聞いてくれ。僕たちの未来に関わる話なんだ」
「へー」
へー、で終わっちゃったんだけど。
魔法の勉強に夢中で、全然僕の言葉が頭に入ってないな?
「フリーゼ、そろそろ本気で怒るよ?」
「オコル? どんな魔法?」
「明日からずっと、フリーゼが嫌いな野菜を出すよ?」
ピーマン、ニンジン、セロリにナス。
フリーゼは好き嫌いが激しいから、いくらでもレパートリーを用意できる。
「楽しみだなー。今まで作れなかった料理が色々できそう」
「…………はぁ」
お、やっと本を置いてくれた。
うわー、顔はメチャクチャ不機嫌そう。でも、眉間のシワすらもかわいい。
「手短によろしく」
そう言われても、手短にできるわけがない。
それほど大事な話だ。
「ねえ、僕たちが出会ったときのこと、覚えてる? あの孤児院は本当に酷い場所だったよね」
今思い出しても、イヤな気分になる。
人身売買!
危ないお薬!
マフィア!
悪いこと役満!!!
そんな孤児院だったなぁ。この世界、そんなことがいっぱいあるみたい。
「8人で孤児院を抜け出して、通りすがったチーパオ商会に拾われて、それで今はこの農村――アンファンス」
「手短にしてって」
「これでも頑張って短くしているんだ」
「……はあ」
そのため息、吸ってもいいですか?
ダメですよね、はい。
「本当に、アンファンスっていい場所だよね。孤児院にいた時からは想像できないぐらい、平和な暮らしができてる」
本当に、この『アンファンス』村には感謝してる。
ちょっと気候は過酷だし、13月まであるけど、住んでいる人たちはみんな優しくしてくれる。
領主さまは『辺境の英雄』と呼ばれていて、いつも村を守ってくれているし、他の村と比べると安全なのが最高。
まあ、王都から離れすぎているせいで、発展はしてないけど。
「僕は今、最高に幸せだよ。孤児院を脱走した判断は間違いじゃなかったって胸を張って言える。でも、僕の中にはずっと膨らみ続けている感情があるんだ」
そう。
幸せな生活。
穏やかな日々。
それだけじゃ満たせない欲望が、僕の中にあるんだ。
「僕、もうこの気持ちを抑えられない」
「気持ち?」
「ずっとずっと、考えていたんだ。フリーゼと仲良くなるにつれて、どんどん」
「それって……」
ああ、喉が渇いてヒリヒリする。
唇が割れてる。
でも、心が叫びたがってうずうずしてる。
「フリーゼ。これは僕の本心なんだ。聞いてくれるかい?」
僕はついに、この言葉を口にするんだ。
この想いを。
夢を。
心の全てを。
「幼馴染として、オギャらせてくれっ!!!!」
決まった。
完璧だ。
これぞ修行の集大成。
後光が差して見えるほどの、完璧な土下座だ。
これが僕の、前世からの夢。
幼馴染に甘えたい。オギャリたい。ヨシヨシされたい。
前世でトラックに轢かれても、天使に力説した挙句ドン引きされて孤児院にぶち込まれても、全く色褪せなかった想い。
それほどの熱がこもった土下座だ。
これなら、フリーゼも二つ返事で――
「……はぁ」
あれ?
予想していた反応と違う。
「ねえ、ミース」
「はいっ。なんでしょうかっ」
やばい、この表情と声、ガチなやつだ。
完全に怒ってる。背筋凍る。怖い。さすが冷血のフリーゼ。
「わたしにこそこそ隠れて、ずっとその土下座を練習してたの?」
「その通りでございます」
「ゴミなの?」
違うんだ。
僕にそんな趣味はない。
僕はただ、幼馴染に甘えたいだけなんだ。
あれ、土下座の意味、変わっちゃったんだけど。
「大体、なんで私なの?」
「幼馴染だからですます」
「幼馴染って言うなら、
2人とも、孤児院から脱走した仲間だ。
このアンファンスに住んでいるんだけど、別の道を歩んでいる。
脱走仲間はみんな、大事な幼馴染。一生大事にするつもりだし、かけがえのない7人だ。
でもやっぱり、その中でもフリーゼは特別。
「フリーゼが一番だから」
「何が一番なの?」
ん?
なんだかフリーゼが期待した目をしているような……。
でも、すでに僕の中の答えは決まっているんだ。
「そんなの決まっているじゃないか。フリーゼとは生まれた時からずっと一緒にいて、どんなことも知っているんだから」
「……うん」
僕はフリーゼと同じ屋根の下に暮らして、いつもかわいいって心の中で叫んでいる。
だから、知っている。
彼女の魅力を。
ちょっと言葉にするのは恥ずかしいけど、男として言わないといけない。
そう。
「フリーゼのおっぱいが、一番大きいからだよ」
フリーゼは一見、小柄な女の子にしかみえない。
だけど、僕は知っている。僕だけが知っている。
あのローブの下には、大人顔負けの豊かなお胸が隠れていることをっ!
それを意識した日から、僕のオギャリ欲が爆発してしまったんだ!!
「……………………」
あのー、フリーゼさん。何か反応してくれませんか?
何も言ってくれないのは寂しいですよ。
それに、なんだか空気が肌寒いような……?
「ねえ」
ひっ。
今まで聞いたことのないような低い声っ!
フリーゼ、すごく無表情。
それなのに冷や汗が止まんないんだけどっ!
これって怒りすぎて表情が無くなってるって言うヤツ!?
「そんなにママが恋しいの?」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
流石にマザコンだと思われるのは恥ずかしい。
いや、否定しきれないんだけど……。
それに、孤児同士の会話なせいで反応しづらいのですが。
「よくわかった」
あの、わかったって……。
絶対に僕の要望を聞いてくれる雰囲気じゃないですよね?
「そんなにママママ言うんだったら……」
なんで杖を取り出すの?
ちょっ、呪文唱えないで!?
全身が光ってるんだけど! 絶対ヤバイ魔法の兆候ですよね!?!?
「お前がママになるんだよッッッ!!!」
「まっ……!」
はい。
こうして僕は、女になる魔法を浴びたって訳。
12歳の少年だったのに、全裸のグラマラス美女に大変身しちゃった。
うーん。
ちゃんと思い出していくと、結構な割合で僕が悪い気がする。
もうちょっとお願いの仕方を考えるべきだったかな。フリーゼに誤解させちゃったみたいだし。
でも、反省は終わり!
時間は有限。さっさと切り上げないと。
いつどうなるかわかんないんだから、悔やんでいる時間なんてない!
さて、フリーゼの機嫌も少し良くなってきたことだし、僕が浴びた魔法について聞いてみようかな。
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