第7話 新天地と書いてムホウチタイと読む
王城から追い出されてやって来たよブラッドエンド。
どんなに頑張っても生きていけない、血が絶える地ってのがキャッチフレーズだそうです。
乾燥した大地と岩山が雄大で。
たまにある草原が癒しで。
他の地域に比べ凶暴な魔物達が刺激的な素敵な場所です。
そんな大自然しかないところに今バッコンガッコン大きな音が響いてます。
来た時は何もなかった場所が見渡す限り建設現場に早変わり。
「おぉーい、材料が足りねぇぞ!」
「こっちは人をくれ!何人か怪我しちまった」
あっちこっちで怒号が飛び交い、急ピッチで堀が、城壁が作られていく。
素晴らしい働き者たちだ。
怪我には気をつけてね。
俺は忙しそうに仕事をする人々を眺めながらえっちらおっちら歩いていると、全身黒ずくめの覆面に呼び止められた。
「城主様。
北の方でまな魔物の集団が出ました。
戦闘奴隷を15人ほどお借りしても?」
「あ、うん、行ってらっしゃい。
気をつけてね」
黒子達はここに来てからもずっと黒ずくめだ。
強い日差しも地をなめるような熱風も、軽装になるより遮った方がいいらしい。
かくいう俺も青地に金の刺繍が入った全身を覆うようなゆったりした服だ。
めっちゃ目立ちたがり屋の金持ちくさい。
バジルさんの趣味である。
そして当のバジルさんですが。
俺が一帯の中央にあるテントの一つに入るとお茶の用意をしてくれてました。
サラサラのデコルテと腹と足が丸見えの南の国の衣装で。
セクシィ踊り子ねぇちゃんやで!
手を出したらチョン切られるから注意だぜ!
「あ、バジル。
戦闘奴隷15人を魔物討伐係さんに預けたから」
「はい、分かりました。
というかいいんですよ。
私のものは主人が好きに使ってくださって」
そう、なんとこの一大開発プロジェクトを担ってくれている人足はほとんど奴隷。
バジルさんのご家族からの結婚祝いである。
結婚祝いに奴隷が数百人てどこの暗黒帝国よ!?
身一つで追放されて寂しく萎びるどころか大大家族でわいわいですけれど。
あとガチのバジル親族さんもやって来ている。
親にもらった土地なのに婿感がハンパねぇ。
こんな事になったのはそう、祝賀会の次の日からだったなぁ。
祝賀会が、終わって次の朝。
俺とバジルと叔父さんは離宮を出る事になった。
「王城からの通達だと王都は今日中に出なきゃいけないし。
道中も同じ都市には一晩以上いられないらしい」
速攻で死地に行けって事かな。
ご丁寧に強そうな護衛が3人ついた鍵付きの馬車を用意されていた。
「巻き込んでごめんな。
向こうに着いたら2人は好きな所に行ってくれ」
「何を言う!
大事な甥を置いてはいかん。
俺は死ぬまでお前を守ると決めとるんだ」
「ありがとう、叔父さん」
叔父さんの笑顔に胸が温かくなる。
だが、これから先は今までよりずっと過酷な生活が待っている。
そう思うと申し訳なくて。
バジルが手を上げた。
バジルは一緒に行ってくれるのかそれとも離れて行くのか。
俺の胸が緊張でどくりとなった。
「あの、叔父上が一緒ならうちの家族も呼んでもよろしいでしょうか?」
まさかの義家族も一緒。
「え、あ、うん。
いいけど、王妃が言っていた通りの全然いい場所じゃないぞ」
「そんなことないです。
私の家族は家業のために定住できなくて。
ずっと安住の地に憧れてたんですよ」
あ、はいご家族皆んな裏社会人ですもんね。
定住してたらヤられちゃうよね。
外で高らかに法螺貝が鳴る。
天井から拍手と口笛が聞こえた。
何人いるんだよ!?
バジルのご家族御一行が住民になったようだ。
バジルはうっきうきである。
「ブラッドエンドはこの国の治外法権なんですよね。
騎士の摘発もなく、隣近所の住民にバレないようにヒヤヒヤもしない。
ゆっくり安眠できる場所なんて夢みたいです」
ご家族皆さん指名手配犯なのかな?
犯罪者の安住の地っていったい・・・あコレ考えちゃあかんやつや。
叔父さんは朗らかに笑っていた。
「ガハハハ!こりゃ賑やかになりそうだな」
たぶんバジルのご家族のご職業分かってないよね。
まぁ叔父さんは荒くれ者が多い辺境出身なのでその辺ゆるゆるなのでありがたい。
そんなこんなで意外と朗らかに護送用馬車に乗り込んだ俺たちを護衛騎士が訝しげに見ていた。
そりゃあ王都から追い出されて死にに行くようなはずなのに、皆んなウキウキ旅行気分が滲んじゃってるからな。
そんな護衛騎士達も次の日からその理由が分かったみたいだ。
なんたって街について出発するたびに馬車が増え、騎馬が増えていくんだもんな。
騎馬と御者席に座っている黒子はバジル親族か従業員、荷台には物資と奴隷が山盛りモリモリ。
あのーこの国って奴隷禁止だよ?
どこぞの裏世界からつれてきたんか!?
「どう言う事だ!?」
と王都を出た時は元気よくドスを効かせた護衛騎士に俺は答える。
「嫁の花嫁行列です」
マジ分からんって顔をした護衛騎士達も2日目からは青い顔で震えていた。
なんせ服は質素に殺気はギラギラなバジル親族に囲まれちゃったからね。
俺達にいちゃもんつけたり、横柄な態度を取るたびに真っ黒な黒子の手元がギラリと光ります。
絶対にヤられちゃいけないドキドキ24時。
ブラッドエンドに着く頃には護衛騎士達の頬はこけしなびていた。
強面筋骨隆々ムッキムッキマッソーなおっさん達があら不思議、社交界の可憐な花もびっくりの儚さよ。
彼らは帰れる事に安堵して咽び泣きながらそそくさと帰って行く。
黒子の1人が護衛騎士達を指さす。
え、始末するかって?
や、やめとこうよなんか可哀想だし。
王妃に余計なこと言わないようにだけお話ししといてくれる?
うんうん、なるなる報告したら失踪案件。
さすがバジルのご家族ばっちぐー。
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