草と天災じゃ危険度が全然違う件について
堅善未満
プロローグ 旅先の国で
吟遊詩人は街中の大きな噴水に腰掛け、足元に投げ銭用に小さなハープの箱を置く。
めざとく吟遊詩人がハープを構えたのを見た子供達が駆け寄り、大人も足を止めて輪を作る。
「さぁ、集まった!集まった!
皆んなが大好きな平民王妃様の御伽話だよ」
吟遊詩人は澄んだ声で客を呼ぶとポロリポロリとハープを奏で出す。
『昔々のお話。
王様には3人の子供がいました。
上の2人は王妃様の子供。
末っ子は側妃様の子供。
意地悪な王妃様は側妃を憎みいつも虐めていました。
とうとうある日、王妃様に毒を盛られ側妃様は死んでしまったのです。
可哀想な末っ子王子様は城を追い出されました。
王子様はたった一人だけの騎士をつれ王妃様から逃げます。
あっちの街へこっちの街へ王妃様の追っ手が届かない場所へ。
そんな苦しい生活が何年か経った時でした。
王子様は運命の乙女に出会ったのです。
心清らかで優しい乙女に王子様の疲れ切った心はしだいに癒やされていきました。
そして恋に落ちた王子様と乙女は隠れてひっそり神殿に行き結婚をしました。
王子様はやっと幸せを手に入れたのです。
けれど王子様の結婚を知った王様は2人をお城に呼び出します。
王子様は乙女に言いました。
城に行ったら自分達は殺されてしまうこと。
乙女は王子様と別れ逃げるようにと。
しかし乙女は愛する王子様とどんな事があっても一緒にいる事を誓いました。
そして乙女はミルクとお酒と甘いクッキーを置くと神様に2人の無事を祈りました。
そのおかげで城に行った王子様と乙女は嫌がらせを受けましたが神様が助けてくれました。
それを知った王妃様はたいそう怒りました。
そして王子様と乙女を恐ろしい辺境へ送ってしまいます。
けれど王子様と乙女は辺境でも懸命に暮らしました。
愛し合う2人はどんな場所でも一緒なら幸せだったからです。
神様は仲睦まじい2人にたいそう感動しました。
そして2人に意地悪をした王妃様達に天罰を下しました。
2人にした悪い事が自分達に還ってきたのです。
城の人達はとても反省し、王子様と乙女に謝りました。
王子様と乙女は王様と王妃様になったのです。
そして二人はいつまでも幸せに暮らしました』
吟遊詩人が歌い終わると観客は拍手と共に小銭を投げた。
その中に居た旅行風の1人はふと思いつき古本屋へと向かう。
カウンターで煙管を蒸していた老人に声をかけた。
「吟遊詩人の平民王妃様ってのは本になってるかい?」
「ああ、昔からある有名な話だからね。
子供向けの絵本と王が書いた自伝があるよ」
老人は店の棚から2冊の本をカウンターに置く。
一冊は子供が好きそうな可愛らしい絵本。
もう一冊は分厚く立派な装丁だったのだろうが、角が丸くすれて見るからにふるそうな本。
旅人は家で待つ子供に絵本を買おうと決めた。
自伝はどうするか。
「王様の自伝ってのは堅っ苦しくてつまらないのではないかい」
「いやいや、こりゃあそういうのと違うな。そう、誰にも言えない愚痴ばかりの日記みたいなもんだったよ」
老人の口ぶりからおそらく読んだのだろう。
またその楽しそうな口ぶりから面白そうだ。
旅人は出された2冊とも購入する事にした。
旅人は家に帰ってしばらく後、ふと思い出して旅先で買った分厚い本を開いてみた。
『私はセシル。
今まで不憫な王子、狂った領主、恐ろしい冷血王と呼ばれてきた。
まぁ、それについてはどうでもいい。
あながち起きた事は相手にとって悪いことだったのは間違いではないのだから。
だが、なんとも正確ではないというか違うんだよなぁと思うこともある。
そしてそれを誰にも言えなかった事がストレスだった!
あぁ、俺の治世も終わったし?もう何言われてもいいし?いっちょゲロっとこう!
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