第四章 惨禍

家に戻ると、既にちふと中城が戻っていた。

「勘弁してくれ…もうガキの子守は御免だ」

何かあったらしい。

「うっしっし。お陰でいい動画になりそうっス。Dさんはなんか見ました?」

「あぁ…。村人を見た」


部屋の空気が凍る。


「マ、マジっすかッ!本当に居ましたか!」

「いや、まだわからないが…。一瞬一人になりたいと思ってy字路の交差点で座ってたんだ。そうしたら、目の前に」

「どんなッ!どんな姿をしてましたッ!」

「それが…。犬の画面を被った男でさ。多分剥製みたいになめしたやつなんだろうけど。服はなんか、ぼろというか和服みたいな感じだったよ」

「こ、これは新情報だ…!恐ろしや…」

わなわなと震えるちふの横で、中城は冷静だった。

「何度も言ってるが、ここは廃村だ。それに犬の頭をした男?わからんが、狸か狐にでも騙されたんじゃないか?」

少しムッとしていると、遠くから走る音が聞こえる。誰かと思えば恵さんだった。

「ごめんなさいね、遅れちゃった」

「何してたんだ」

「トイレよトイレ」

「コンビニで行ってこいとあれほど…。」

「しょうがないじゃない、それより早くいきましょう?夜になると危ないんでしょう?」


「それで、その村人たちは襲ってきましたか?」

「いや、そんな事は…。何かを確かめるようにこっちを見て、しばらくすると帰っていったよ」

中城が呆れたように言う。

「中にはコスプレイヤーが撮影会をしたりサバゲーをしたりするやつもいる。全く、廃墟の美しさを分からない奴らはこれだから」


30分ほど歩き、ようやく看板のあった村の入り口が見えてきた。

「俺たちはバイクだ。あんたらは隣の車か?」

「ええ、そうです」

「ま、肝試しはほどほどにすることだ」

最後まで鬱陶しい。


車に乗り込む。まぁ、素材はちふが撮ってきたものがある。これを切ればなんとかなるはず…。

「どしたんスか、早く行かないとお腹すいたっス」

「発進しないんだ」

「んなアホな」

外へ出る。信じられない。タイヤに穴が開いている。

「おい…」

「どうしたんスか…ってえー!パンクしてんじゃないスか!」

遠くの方で声が聞こえる。中城だ。駆け寄ってくる。

「お前らもか。俺のバイクにも穴が開いてるんだ」

参った。道路から村までかなり距離があったはずだ。それもこの夜中に。

「ついてない。釘でも踏んだか」

「ちがうッス」

ちふがタイヤをなぞる。

「横一線に切られているっス。刃物で切られているみたいっスね」

「刃物…?」

空気がひときわ重くなった気がした。

「とにかく、移動手段がなくなったという事は歩くしかない」

「冗談じゃないわ!この山を歩いて下山するっていうの!?」

「確かに、明るくなるまで待った方がいいんじゃ?」

「昼でも夜でも一緒だろう、この森の中じゃ」

「無闇に歩かない方がいいっス」

「…よしわかった。一旦、来た道を戻ろう」


懐中電灯の光も、徐々に弱くなりつつあった。

さっき訪れた住居へと戻る。ここも暗闇やカビの匂いはするが、壁一枚あるという安心感がある。


「ったく…!なんでこんなことになっちまったんだ」

「…」

「あれ、Dさんも静かっスね」

「当たり前だろ、こんな森の中で立ち往生だぞ」

「まま、そう言わず。腹が減っては戦はできぬという事で」

ちふは鞄の中から大量のお菓子を取り出した。

「まったく、無神経な奴」

ちふの顔を映す。

「…?」

その時、その気配に感じた。

何かが、そこにいる。

呼吸やみじろぎ一つしない、存在が。

「…ん?どしたんスか?」

改めてライトを当てる。

と、同時に悲鳴が鳴り響いた。

入口にいた、店員のあの男。

あの男が直立不動で立っている。

ただひとつ、顔面に斧が刺さっているのを除いて、あくまでその死体は自然だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る