第37話揺らぐ気持ち

春の空気が少しずつあたたかくなってきた頃。

それでも、私の胸の内はどこか曇ったままだった。


「最近、なんか湊と話してないよね?」


真央の何気ない一言が、胸に小さく刺さる。


「……そう、かもね」


言葉を濁して返す。


同じクラスになったのに、気づけば会話は減っていた。

隣の席じゃないというだけで、こんなにも違うのかと思うほどに。



放課後、私は教室に一人残っていた。

ノートを閉じると、窓の外の夕陽が差し込んで目を細めた。


ふと、誰かが教室に入ってくる気配。


「詩……まだいたんだ」


湊だった。


「うん、ちょっと……ぼーっとしてただけ」


「……なんか、最近あんまり話せてなかったなって思って」


「……そうだね」


沈黙が落ちる。

気まずいわけじゃないのに、言葉がうまく出てこない。


でも、このまま何も言わなければ、またすれ

違っていきそうで

私は、小さく口を開いた。


「なんかね、ちょっと自分でも分からないんだけど……怖いの」


「怖い?」


「うん。距離ができるのが。前みたいに自然に話せなくなるのが」


湊は黙って聞いていた。


「でも、それって……たぶん私のせいだと思う。となりの席じゃなくなって、自分から話しかけるのが、ちょっとだけ勇気いるっていうか」


湊がふっと笑う。


「オレも、同じだったよ。気軽に声かけるの、ちょっと躊躇してた」


「……ほんと?」


「うん。でも、今こうやって話せてるし。だったら、また少しずつ戻していけばいいだけだと思う」


そう言って、湊はまっすぐに私を見た。


「大丈夫。となりじゃなくなっても、詩との距離は変わらないよ」


その言葉に、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。



教室を出た帰り道、

沈んでいた空が、少しだけ明るくなったような気がした。


“となりじゃなくても、大丈夫”

その言葉は、少しだけ揺れていた私の心に、静かに届いていた。

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