第35話詩の変化

「ねえ、最近の詩、ちょっと変わったよね」


お昼休み、屋上に続く階段の踊り場でパンをかじりながら、真央がぽつりとつぶやいた。


「……え?」


「なんていうか、表情とか、声とか。去年よりずっとやわらかくなったっていうか」


私は手を止めて、真央の顔を見る。


「……そうかな」


「うん。特に湊くんと話してるとき」


その言葉に、心臓が跳ねた。


真央は笑ったりからかったりするわけでもなく、

ただまっすぐに私の目を見て言った。


「別に悪い意味じゃないよ。むしろ、詩らしくなってきたなって思うだけ」



たしかに最近、自分でも少し変わってきた気がしていた。


前だったら、誰かに気を遣って黙ってしまったり、

話しかけるタイミングを逃してしまったり。

そんなことがよくあった。


でも今は、湊に声をかけるのが、少しだけ自然になった。


「“となりじゃなくても、大丈夫”って、思えてきたからかな」


思わず口にしたその言葉に、真央が目を丸くした。


「おぉ……!」


「ちょ、なにその顔」


「いやいや、詩がそんなセリフ言うとは思わなかったから。なんか、恋ってすごいね」


「べ、別に、恋って……!」


「んー? そう言うけどさ、詩の話っていつも“湊くん”のことばっかなんだよ?」


言われてみれば。

真央と話すとき、私が自然に話題に出してるのは、たしかにいつも湊のこと。



放課後、教室で荷物をまとめていたとき。


湊が近づいてきた。


「明日、帰り道に駅前寄っていい?」


「え、駅前?」


「ちょっとだけ寄りたいとこあるんだけど、一人じゃ入りづらくてさ」


「……いいよ」


自然にそう答えられた自分に、少し驚いた。


湊が笑った。


「ありがとう。助かった」


その一言だけで、胸が少し温かくなった。



(ほんとだ、私……変わってきてる)


自分でも気づかないうちに、少しずつ前に進んでいた。


それがどこに向かうのか、まだわからないけれど

今はただ、もう少しだけ湊のそばにいたい。


そう思った。

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