第31話再び、B組で
新しい教室の扉を開けた瞬間、空気が少しだけ変わった気がした。
(また、B組……)
あの日、掲示板の前で見つけた自分の名前と、湊の名前。
同じクラスになれたことに、ほっとしたような、少し照れくさいような気持ちになった。
「詩!」
後ろから真央が駆けてくる。
「同じクラスだったね! 今年もよろしく~!」
「うん、よろしく……。ほら、あの席空いてるよ」
窓際から2番目。私が去年座っていた席の近くだ。
だけど、そこに湊はいなかった。
湊の席は、黒板のすぐ近く、前から2列目の真ん中あたり。
私は教室の後ろ側、隅の席になった。
「となりじゃないんだね」
真央がぽつりと言った。
「うん。……まあ、同じクラスなだけでも十分だけどね」
本当は、ちょっとだけ寂しかった。
目を上げると、湊がこっちを見て、小さく手を振った。
私は、笑ってうなずいた。
離れた場所からでも、ちゃんと気づいてくれる。
それだけで、少しだけ安心できた。
新学期のガイダンスが終わって、帰り道。
「なんかさ、ちょっと大人っぽくなったよね、湊くん」
真央が不意に言った。
「え?」
「なんか前より落ち着いてるっていうか、背伸びしたっていうか。男の子ってさ、高2になると急に変わるよねー」
私は返事をしなかった。
(変わったのは、きっと私のほうなのに)
心の奥で、まだ言えない気持ちがうずいていた。
夜。部屋で机に向かいながら、私はスマホを手に取った。
(何か、送ってみようかな)
だけど、何も送らずに画面を閉じた。
湊も、きっと今は新しい環境に慣れることで頭がいっぱいだろう。
“となりの席”じゃなくなっても、私たちは――
少しずつ、歩いていける。そんな気がしていた。
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