フェイクマジック

@three_seven

プロローグ

 今、話題になっている“八”という男。

この名前を知らない人は今の世の中にはほとんどいないのではないだろうか。

人によっては彼は“希望”であり、

人によっては彼は“敵”であるという。

ウワサによると、彼は魔法が使えるらしい。

もちろん、この世はドラマや映画の世界ではない。

だから、にわかには信じ難い話だ。

だが実際、彼は魔法を披露し、信者を集めている。

信者といっても、彼らからお金を巻き上げているわけではない。

魔法が本当かどうかはともかく、犯罪などに手を伸ばしているわけではない。

それを証拠に、彼は普通にテレビなどのメディアにも出演している。

―ただ

 彼の魔法は一度もメディアで見られたことはない。

彼いわく、

「信じない者の前で魔法を使うのは危険」

だという。

そのせいもあって、うそだとか、ハッタリだと言う人は少なくない。

では、なぜ魔法が証明されていないのに魔法を信じる人は増え続けているのだろうか。


それも不思議だ。


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 俺の姉はその信者の一人だ。三カ月前ほどから魔法の存在を知ったらしい。

最初は変なカルトかと思って止めなければと焦った。だが、聞いた感じでは姉は一切金を払っていないという。借金はしている様子もなく特に害もなかったため強く止めることはしなかった。

なにより--

 姉が楽しそうにしていた。

少し前に鬱になって働くことすら厳しい状態だったのに、一カ月前にはついに会社に復帰しできるまでになった。何があったのか聞いたら、

「魔法のおかげ」

としか姉は言ってくれない。せめてその魔法なるものを詳しく聞こうと思っても教えてくれない。

「あなたは信じてないでしょ?」

姉はそう言って、いつもたぶらかされる。それどころか。

「そんなに気になるなら実際に行って見てきたらいい、そしたらもしかしたらあなたも信じられるかもね」

なんて言ってきた。別に行くまでではないと思っていた。だが、「社会復帰できたことを報告するついでにお礼しに行く」と姉が言ったため、少し心配だったのでついて行くことにした。カルトではないとはいえ、本当に安全なのか確かめる必要があると思った。


だから、俺はついて行くことにした。

―ただ、それだけだ。

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