第13話 宴


「うぃーす、お前ら良いもん獲って来たぞー」


 ギカントボアとの戦闘から一時間後。

 俺はガキ達のいる村へ戻ってきた。


「おかえりなさいなのです──って!でかーーーーいのです!?」

「これは私達がやられたギカントボアではないですか!?」

「んっ、超大物」

「流石聖者様だ!」

「エルフ様すげぇーーーー!」


 案の定というべきか、お土産にデッカい猪を持って帰ってきたことで、村にいた全員が大騒ぎとなった。


「こんなのが近くにいたのか。本当聖者様がいてくれて良かったな」

「おい、この俺鋼鉄のゲルド様も手伝ってるからな!エルフの野郎だけじゃなく俺にもしっかり感謝しろよ」

「はーい。ありがとうお兄ちゃん」

「おっ、おう。話が分かる奴は好きだぜ。へへっ」

「この肉、一体何人分あるんだ?村の全員分?」

「バカモン。そんな人数じゃ全然足りんわ。騎士様や聖者様を含めたお客様を入れても余るほどじゃ。つまり、宴じゃあーーーー!」

「「うぉぉぉぉーーーーーー!!」」


 主に歓喜の声で。

 自分達の生活を脅かす化け物が消え、代わりに普段あまり食べられない肉が大量に手に入ったのだから当然だろう。

 といっても、実は半分くらい毒で食えなくなってるので見た目ほどの量はないんだけどな。

 一応、それでも頑張れば解毒出来なくはないが、半分でも量としては充分な上に、多少残っていても成分を分析されないために時間経過で効力が無くなるようになっているので放置しても問題はない。

 何より、結構魔力を使って疲れたのでしたくない。

 調子乗って魔法をばかすか打ちすぎたわ。

 実は結構ヘトヘトだったりする。

 元気があれば肉の解毒をして、行商人とかに売りつけるんだがな。

 まぁ、毛皮の方が肉よりも高く売れるので、そっちが無事なら手間賃としては充分だろう。

 


「なぁ、猟師っぽい兄ちゃん解体頼んでいいか?」

「あぁ、任せてくれ。聖者の頼みとあれば全力でやらせてもらうぜ。……だが、時間かかるのは多めに見てくれよ」

「分かってるって。ほら、このナイフを三本貸してやるよ。切れ味が上がる魔法が掛かってるからギカントボアの分厚い毛皮も切れるはずだ。取り扱いには注意しろよ、後、付与魔法は一時的に掛けただけだから半日後には普通のナイフに戻るからな、変な気は起こすなよ」

「まさか!?聖者様相手にそんな罰当たりなこと出来るかよ!命に変えても、絶対返させてもらうぜ。なぁ、お前ら」

「「おう」」

「そこまで気合いを入れなくてもいいが。とりあえず、俺は疲れたから少し休むわ」


 村人達が盛り上がっているのを横に、俺は解体の仕事を早々に押し付け少し離れた木陰に寝転んだ。

 心地よい風に微睡むことしばらく。

 ある時、近くの草をガサっと踏み締める音が聞こえてきた。


「本当貴方って無茶苦茶ですわね」


 瞼を上げると、呆れ顔でこちらを見下ろしているギルネリーゼと目が合った。


「まぁな、そりゃ世界でも有数の金色魔法使い様だからな俺は。あんくらい余裕よ余裕」


(まぁ、今回殆ど魔法関係ないんだけどな)


 心の中でそう付け加えながら、俺はニヒルな笑みを浮かべるとギルネリーゼは「そうですか」と言って、俺の横に腰を下ろす。

 それから、遠い目を浮かべ空を仰いでいた。


 数十秒後。


「……怪我の確認をしたいなら俺が完全に寝た時にするんだったな」


 不意に俺がそう言い放つと、ギルネリーゼの顔が赤く染まった。


「なっ!?なっ、何のことですか!?別に私はそんなことをしに来たわけではありませんわ!また、貴方が財布を盗まれると困るので仕方なく護衛をしに来て上げたですわ」

「へいへいそうですか」


 時折、こちらをチラチラ見て来ていた癖にそれは無理があるだろうと思いつつも、変に揶揄って拗ねられると面倒くさそうなので大人な俺はスルーしてやった。

 

「……で、怪我はないんですの?」


 しかし、相手の方は子供だったようで。

 誤魔化すのに耐えきれず、ギルネリーゼはそっぽを向きながら尋ねてきた。

 可愛い奴め。


「ねぇよ。あっても、自分で治療してる」

「そうですわよね。ふんっ、分かっていましたわよ。貴方がそういう人だということくらい」


 自分から話を振って、勝手に不機嫌になるという忙しい紫娘が面白くて、俺は「くっくっ」と喉を鳴らす。

それを聞いて益々、ギルネリーゼの機嫌は悪くなり「貴方のお肉は全部私が頂いてやりますから覚悟してなさい」と言って、メルとシンシアの元へ戻って行った。


 それから、俺は小一時間ほど仮眠を取り、応急処置した騎士達の治療を終えたところで、日が沈み宴が始まった。


「聖者様この度は誠にありがとうございます」

「おうおう。本当たまたま俺がいて良かったな。後、聖者様っていうのやめろ。アルって呼べ」

「失礼しました、せい、アル様」

「おい、早々に間違え掛けてんじゃねぇよ」


 始まってすぐ、俺は騎士の連中に絡まれた。

 治療後に、礼と金(小切手)はしっかり受け取っているので正直これ以上感謝の気持ちを伝えられるのは、過剰で内心鬱陶しかったが、今後のことを考えて愛想を良くしておいた。

 聞きたいこともあったしな。

 俺は魔法で冷やしたエールを飲みつつ、一つ気になっていたことを尋ねた。


「なぁ、まだウィルバート領に治癒師の人手はいると思うか?」


 そう。

 ギカントボアを倒してしまったせいで、危険がなくなり大量の金貨が手に入らない可能性があることに寝て起きてすぐ気がついてしまった。

 そこからどうしても気になって、質問する機会を密かに探っていたのである。

 そんな俺の思惑を知らない騎士は「いえ、まだまだ需要はあるでしょう」と答えた。


「そうなのか?」

「はい。ウィルバート領全域で今モンスターの動きが活性化しています。東側こちらはせいじゃ──アル様のおかけで落ち着くでしょうが、西や北の方はおそらく別のモンスターが原因でしょう」

「そうか」


 俺は内心でガッツポーズを取りながら、騎士の話に相槌を打っていると、銀色狼ことシンシアがちょこんと足の上に座ってきた。


「主様。お肉持ってきた」

「おう。気が利くな」

「んっ」


 正直、動きにくくなるので退いてほしいのだが、食べ物を持ってきてもらった手前無碍にも出来ず。

 俺は差し出された骨つき肉を受け取り、かぶりつく。

 すると、口の中に大量の肉汁と旨みが広かった。


「うまっ!やっぱギカントボアの肉は最高だな」

「うん。すごく美味しい。主様に感謝」


 遅れてシンシアもギカントボアの肉を食べ、頰を少し緩ませた。

 どうやら、狼らしくシンシアは肉が大好物らしい。

 もきゅもきゅと子供にしては早いスピードで食べすすめていく。

 それを肴にエールを飲んでいると、不意にシンシアが「んっ?」と首を傾げた。


「どうした?」

「なんか変な血の味がする?」

「変な味?なぁ、騎士さんよ。解体はきちんと使える部分だけ使ってるんだよな?」

「ああっ、解体した猟師曰く完璧に分けたと言っていた」


 これだけ時間が経っていれば毒の効果が殆ど無くなっているのだが、万が一がある。


「そうか。まぁ、でもワンチャンミスってる可能性があるな。とりあえず、吐け」


 俺はすぐに指示を出すと、シンシアは頷きすぐに吐き出した。


「身体に異変はないか?痺れとか眩暈とか?」

「特にはない。普通」

「『診察スキャン』。確かに異常はねぇな。たまたま変なところに当たったんだろ。変えてもらってこい」

「そうする」


 軽い診察の後、軽い足取りで肉を取りに向かったシンシアの姿を眺めながら、俺は立ち上がり周りの様子を確認する。

 が、誰も肉を食べて不審がる者はいなかった。


(たまたま変なところに当たっただけか)


 俺はそう自分の中で結論付け、一応周りで倒れる奴が出ないか気を配りながら酒を飲み続けた。


 数時間後。


「うえっぷっ」

「きっつ」


 多くの人間が倒れ伏す死屍累々の光景が目の前に広がっていた。

 とはいえ、それは毒の影響ではない。

 単純な酒の飲み過ぎによるもの。

 

(警戒のし過ぎだったか)


 俺はそれを見てようやく警戒を解き、エールのお代わりを受け取りに立ち上がるのだった。




 おまけ


「聖者様。何杯飲むんだよ?強すぎだろ」

「軽く二十は行ってたよな?」

「あの人、あれで酔わないって私達と出会う前にどれだけ飲んでたのでしょう?」

「さぁ?」

「うっぷ、メルは一杯でもきついでふ」

「メル!貴方何飲んでるの!?子供がお酒を飲んだら危険なのよ!シンシア、エルフのところに行きますわよ」

「ひっく、わかっちゃ」

「何で言ったそばからシンシアも飲んでますのよ!?」

 


 




 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る