第6話 ウィルバート領へ(マギア領のお隣)


 

「だ、だ、だだだだだだ大丈夫なのですか!?」


 意識を失ったギルネリーゼを抱き上げたところで、蒼い顔したメルが駆け寄って来た。


「安心しろ。後遺症が残らないよう完璧な角度でやってやったぜ」


 俺はそんなメルに決め顔でグッドサインを返してやった。


「う゛〜〜〜〜そっちもなんですけど!エルフ様の手が!?」

「主様、大丈夫?」


 チッ、せっかく空気をギャグの方に変えようとしてたのに、空気の読めない奴らだ。

 まぁ、この空気から無理矢理変えるのは流石にキツかったか。


「あー………。今回くらい何ともねぇよ」


 心配そうにこちらを見つめる無垢な視線に耐えきれなくなった俺は、視線を逸らす。

 俺は治癒魔法が使えるから大抵の傷は治せるため、周りの奴らから心配されることが少なかった。

 むしろ、魔法の練習になるからいいでしょ?と仲間のエルフ達から言われて育ってきた。

 だから、彼女達のような反応には慣れていないのだ。

 俺はすぐに『中治癒ミドルヒール』を使って即座に傷を塞ぎ、黒のタオルで血を拭き取った。


「で、お前らコイツがなんで暴れ出したか心当たりはあるか?」


 ベッドに暴走娘を転がしたところで、俺はガキ二人にそう尋ねた。

 しかし、二人は俺の予想とは裏腹に首を横に振る。


「ごめんなさいなのです。知らないのです」

「私も、知らない。一緒にいたの、まだ半年くらいだから」

「そうか」


 下手な姉妹より仲睦まじげな感じだったから、てっきり長い間協力して暮らしていると思っていたのだが……

 どうやら彼女達が出会ったのは意外と最近だったらしい。


(まぁ、スラムのガキなんてその日を生きるのに必死で、身の上話をする暇もねぇか)


 俺は心の中でそう呟き、起きたら事情を聞いてやろうと思考を切り替える。


「一名講義を受けれなくなっちまったし、どうすっかな。んっ?」


 この暇な時間の間に何をしようかと頭を捻り出した瞬間、窓から見覚えのある梟が入って来た。

 コイツの名前はレターオウル。

 人と共生するタイプのモンスターで匂いを覚えさせた相手元へ手紙を届けてくれるのだ。

 ただし、餌をきちんとやらないと途中でバックれるので、たまに届かないこともある。

 今回のレターオウルは丸々としているのでしっかり餌を貰っているらしい。

 

「じゅるり」

「おい、餌じゃねぇからな。食べようとすんなよ」


 そんなレターオウルを涎を垂らし、今すぐにでも襲い掛かりそうな狩人を睨みながら、俺は梟の足に結ばれていた手紙を解く。


「えっと、なになに。エリシュオン王国のウィルバート領からか。『領の近辺で強力なモンスターが住み着いたことにより重症者が多数発生。領内の治癒師達だけでは足りないため、医者と治癒師の要請を求む』と」

 

 差出人が教会からではなくウィルバート伯爵本人から。

 

(結構やばそうだな)


 よほど急ぎの場合でなければ、こういう治療の依頼は治癒師ギルドを通して行われる。

 治癒魔法を使える魔法使いは少ないからな。

 必要とされている場所に、必要とされている人数を送るれるようギルドが仕事の割り振りを管理しているのだ。

 ただ、緊急事態に限って言えばギルドの仲介する時間を省くため、依頼者が直接依頼をしてくるパターンがある。

 こういう依頼はめちゃくちゃ大変な代わりに金払いがめちゃくちゃいいのだが、今回は──


「──一日金貨二枚(二百万円)だと!?」

「金貨二枚!?……金貨二枚っていくらなのですか、シンシア?」

「えっと、銅貨が、百枚集まったら銀貨で、銀貨が、百枚集まったら金貨になる……分かんない」


 ──俺は手紙に書かれた金額を見て目を疑った。

 報酬としてはつい先日こなしたばかりのものに比べれば、かなり安い。

 だが、あれは単発の話。

 今回の依頼は問題が解決するまでの間、毎日継続的に支払われると書かれている。

 つまり、問題が解決するまでの間、仕事漬けの日々を送ることになるが、代わりに毎日二百振り込まれるのだ。

 うまい、美味すぎる。

 上手くいけば持ち家を持つことや、ガキ共達が使えるようになるまで育成に専念できるようになる。


(これは行くっきゃねぇ!?えっと、とりあえず、今いるイスフィール領からウィルバート領まで馬車四人が銀貨4枚で──)


 脳内でソロ盤を高速で弾き出してからしばらく。


「──いや、ちょっと待てよ」


 とあることに気が付いた。

 否、

 俺はくるりと後ろを向き、ガキ達の方を見る。


「んっ?」

「どうかしましたですか?」


 不思議そうに首を傾げるメルとシンシア。

 鈍い奴らめ。

 せっかくの儲け話なのに、こいつらは全く分かっていないらしい。

 

「よしっ、お前ら明日から厳しく行くから覚悟しろよ」


 俺はそう言ってニヤリと笑いかけると、ようやく何かを勘付いたのか二人は「「ひっ」」と悲鳴を上げるのだった。

 

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