<スカスカ> - Side Skyblue Version.

連星霊

Intro

「──霜夜しもよちゃんさぁ。もう少し愛想良く!お客さんに失礼でしょ?笑顔だよ笑顔!明るい声で言うの!」

「……それができたら苦労しません」

 アルバイト先の飲食店。先輩のその指摘に、私は思ったことをそのままそう返した。

「だからさ。…まったく、反省しろって言ってんの」

「……これが私なんです」

「そういうところを反省しろって。ったく、何言ってもダメなんだよなぁ…理解力無い奴の相手すんのも大変なんだわ」



 ───どの口が。



 夜の街を歩く。

 この東京の街を行く人々はみんな足早で、周りの人のことは気にもとめない。

 私は歩道のその辺に捨てられた某ハンバーガーチェーン店のロゴの入った紙袋をしゃがんで拾い上げ、数歩だけ歩いた後に、また同じように捨てられたゴミを見つけ、それは拾わず通り過ぎた。そしてまたポイ捨てされたタバコの吸殻と箱を見つけ、ため息をついて手に持っていた袋をその上に重ねるように、捨てた。

 自分の中の正義感は、ポイ捨てされた全てをどうにかしたいと思っている。けれど、少し考えれば、そんなことは無理だと気付いてしまう。

 こんなことなら、最初からポイ捨てされたゴミなんて、なんとも思わずにいたいのに。

 無駄に何とかしようと思って、最初だけ行動しようとして、後になって投げ出す。こんなしょーもない人間でいる。



 街から外れて、暗い夜道を歩き、自宅にたどり着く。周りに何も無い一軒家。鍵を差し込んで解錠。扉を開けて玄関に入る。

「ただいま」

 返事は無い。この家には私以外誰も住んでいない。

 靴もなく、入って右側にある収納スペースの上の部分にも何もものは置いてない。生活感ゼロの、新築のときのままのような玄関周り。

 明かりをつけてそのまままっすぐ進んで洗面所へ。鞄はそこに放置。手洗いうがいをして、進んできた廊下をもどり、階段を登って2階へ。自分の部屋へ入る。

 白い壁紙。モノクロのインテリアでシンプルな部屋。棚の上には、CDケースがスタンドに立て掛けて飾ってある。砂漠の中にポツンと立つ錆び付いたカラーパイプバリケードに、貼り付けられた『ELLEGARDEN』の文字が指す、曇り空の下の遊園地。そんなCDジャケット。私が敬愛してやまない、世界で1番優しいバンドの1stアルバム『DON'T TRUST ANYONE BUT US』。

 そして、黒い絨毯の上に置かれたスタンドの上に鎮座する、ナチュラルカラーのエレキベース『Fender Jazz Bass』。部屋の奥に置かれた

 私はジャズベースを手に取りストラップを肩にかけて、長い蒼色の髪を払う。4つある弦を1弦ずつ中指で弾いてチューニングをチェックし、部屋の奥に置かれた『Fender』のロゴの輝くアンプにシールドをぶっ刺して、電源を入れる。

 スカートのポケットの中から携帯を取り出し、片耳にイヤホンを付け、音楽配信アプリを開いて、『指輪』を再生。携帯をポケットにしまい、片耳から聴こえる曲に合わせ、体と共に弦を揺らしていく。

 私『霜夜しもよあおい』の唯一の生きがい。それがベース。


「ここに君がいなきゃなんの意味さえない…」


 いつも、いつも。私の気持ちを歌ってくれるのは、音楽だけ。


「いつかまた逢えたら、ずっと……ずっと……won't let you go……」


 下手くそな自分の声が消えていき、そして静寂が訪れる。


 私はアンプの電源を落として、ジャズベースをスタンドに立てると、ベッドに倒れ込んで、体温の無い毛布を抱きしめる。



「……ひいろ……貴女に…会いたい……」




……To be continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る