名無し
your clown ユピエロ
邪魔な騒音
一歩、また一歩と濡れた靴を前へと進める。
服は汗と雨で混じり合い、区別がつかなくなるほどだ。
いつもなら他人と与太話をして時間を浪費しているだろう。
ただ雨の日だけは誰とも話すことはない。
傘もささず土砂降りの雨に当たりながらある場所を目指す。
雨の臭いを嗅ぎながら人の声が聞こえる事の無いように。
そうしてようやく辿り着く。
人の気配も声も、作られる音も存在しない。
山。
土砂降りの雨の中は誰も来ないであろう場所。
此処には親も教師も上っ面だけの友人もいない。
来ることは無い。
雨粒が木々の葉に付着しもう体には殆ど当たらない。
別に此処に来た理由は無い。
ただ雨の日に訪れる習慣がついただけだ。
此処に来れば、口うるさく言ってくる無意味な期待に付き合うことはない。
努力をすれば報われるだの、君ならできるだの、無責任な言葉で自分という存在を語られなくてすむのだ。
君のため、と言って自分の利益のために駒とし扱われるのはうんざりだ。
本人の語る自分より、他人の語る自分のほうが周囲に広まる。
これはもう一種の病気なのかも知れない。
無駄な見栄の張り合い、承認欲求の塊の醜い争い、そういうのは見ているだけで疲れてくる。
彼ら彼女らが失っている時間は地球単位で見ればごく僅かかも知れないが、生憎人はそこまで長くは生きることはできない。
「何をしているの」
声がした方へ顔を向ける。
するとそこには自分とさほど年齢が変わらなそうな女子が立っていた。
木の下にはいないので今も雨に当たり続けている。
ふと、なぜ雨の中にいるのか気になった。
「何でそこにずっといるんだ」
出てきたた言葉は、日常での人を気遣う言葉ではなく、ぶっきらぼうな人に対するあからさま敵意を持った声色。
きっと、この場所でこの状況だからこんな風になっているのだろう。
今はいつも付けている仮面を外している。だからだろう。
「別に理由なんてないよ。ただこうしていたいからここにいる」
「風を引くぞ」
「別に風をひいても、ひかなくても周囲は変わらないよ」
「まるで周囲から必要とされていない物言いいだな」
「きっと誰も必要としていなんだよ。だから私が消えても誰も心配していないから」
顔に笑顔を貼り付けながら、目元から水滴を落とす。
涙なのか、雨なのかはよくわからない。
自分の目で見通すことができるのは、酷く濁った底の見えない目だけだった。
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