現代転生したら、おでんの具でした ~魔王も勇者も煮込まれる~
まひるのつき
第1話 鍋の底で目覚めた二人
がんもどきは、うすぼんやりと目を覚ました。
——いや、「目」などという器官はもうない。
あるのは、汁に沈んだ自分のまるい体と、ぷよぷよと震える感覚だけだった。
(ここは……どこだ?)
しみしみのだしが、脳もないはずの意識にじゅんわりと染みてくる。
熱い。ぬるい。ちょっと寒い。いや、たぶん隣が冷たいこんにゃくだ。
(最後に見たのは、あの剣だった。光の剣。勇者の……!)
彼は思い出した。
何百年も君臨した魔王だったことを。
勇者と最期の一撃を交わし、どちらともなく崩れ落ちたあの瞬間を。
——そして、目が覚めたら、鍋の中だった。
「……まさか、転生か?」
「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」
がんもどきの隣で、ちくわがしゃべった。
中がスカスカなのに、やけに堂々とした声だった。
「お前……その声、まさか……勇者……か?」
「そうだ。転生してもお前のにおいは変わらんな、魔王よ。
だしに混じっても、お前の邪気はすぐわかる」
「はっ、貴様こそ、だしに溶け込むには性格が濃すぎるんだよ」
ふたりの間で、しらたきがくるくる震えた。
その揺れがだしに波紋をつくり、具たちのざわめきを呼んだ。
「おやおや、また新顔かい」
大根が言った。深い声だった。煮えすぎて色が茶色い。
「ずいぶんと濃い味のふたりだね。ここは静かな鍋なんだ、頼むから煮崩れないでおくれよ」
がんもどきとちくわは、しばし沈黙した。
外では屋台のおじいさんが、静かにラジオをつけた。
演歌が流れはじめる。
現代の夜の街の片隅で、魔王と勇者は**二度目の人生(煮込み)**を始めた。
——これは、おでん鍋の底から始まる、転生の物語。
つづく🍢✨
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