第11話
国内においては一定のコンセンサスは取れていたものの、国外の反応では戸惑いは小さくなかった。「一〇〇年後の大災厄」に備える日本政府の姿勢を、冷笑気味に報じた海外メディアも少なくなかった。
とくに火星植民計画は、あまりに荒唐無稽だと思われた。「時代錯誤のSFを読み過ぎた代物」だと。
だから、国際社会でその計画をバックアップするという動きも、はじめのうちは鈍かったのだ。
しかし、あるできごとがその雰囲気を一変させた。
二〇六五年、インドネシアのスマトラ島中部、トバカルデラの至近にあるシナブン山が、二十一世紀最大規模の巨大噴火を起こしたのだ。噴煙の高さは三万メートル以上に達し、関東地方より広い面積を火砕流が埋めた。スマトラ島は死の大地となり、火山灰は最大都市であるジャカルタのあるジャワ島、マレー半島やフィリピン南部にも厚く積もった。
現在の首都であるヌサンタラはカリマンタン(ボルネオ)島の東部にあり、ジャカルタよりも被害は少なかったが、それでも火山灰による機能麻痺は深刻だった。
海峡を挟んだマレーシアでは首都クアラルンプールが厚さ五十センチの灰に埋まり、首都機能を喪失、シンガポールでも国家機能が麻痺する事態に陥った。
巨大噴火の前に周辺地域住民に警告が発せられ、大半が避難を完了させていたが、間に合わなかったり避難時の混乱などで発生した死者は十万人を超え、住む場所を失ったインドネシア、マレーシアの難民は一億人にも達した。
時を同じくして被害の大きかったスマトラ島北部、アチェ州でこれまでくすぶっていた独立運動が再び火を噴き、避難民はアチェを追われることとなった。結果として、インドネシア、マレーシアなどでは国外に五〇〇〇万人以上が流出し、未曾有の規模の難民となった。周辺のオーストラリア、インド、タイ、ミャンマー、ベトナム、さらにアメリカ、そして日本などが受け入れたが、各国にとって難民は重荷になった。
今回のシナブン山の噴火は、地球規模で見ても一八一二年のタンボラ山噴火以来の大規模噴火と言われ、巨大噴火の脅威を世界に否応なしに見せつけた。
科学雑誌が「次なる巨大噴火が起こる可能性の高い火山」の記事を載せた。阿蘇山はその筆頭だった。「阿蘇ファイブ」を想定した対策はさらに加速することになった。
二〇六六年、「特殊大規模災害発生時における特別措置に関する法律」略称「特大災害法」が成立した。
九州火山のカルデラ噴火、チクシュルブ・クレータークラスの大型隕石の落着など、被害域が日本国土の広範囲に及ぶと思われる巨大な自然災害に対処するための法律である
二〇七五年に発生した、遠州灘の南海トラフを震源とするマグニチュード九の地震――「東海道大震災」はこの法律が適用された第一号となった。
復興の過程で、国土の利用構造を変革し、来るべきカルデラ噴火に対応したシフトを組んだのだ。
二〇九二年、日本政府は赤道直下の海域を租借し、メガフロートを建造した。地球の自転速度を最大限に活かせる地の利を活かしてロケットの発射基地として使用し、国際的な一大ロケット産業の集積地として機能させる。ゆくゆくは軌道エレベーターの地上基地に発展させる構想だった。
そして、二一一五年には国際協力によってインド洋の赤道直下に軌道エレベータが竣工し、地球――月のラグランジュ点に宇宙太陽光発電所が建造された。
さらに、様々な技術の進展が、計画を後押しした。
たとえばカーボンナノチューブ(CNT)の大量生産が可能になり、軌道エレベータ建設に実現性が増した。
CNTは、他の用途にもさかんに使われるようになった。例えば建築物の構造材にすることで巨大な橋や建物が安く簡単に建造できるようになり、津軽海峡や瀬戸内海に橋がいくつも架けられた。
さらにCNTが世界を変えたのは、エネルギー貯蔵手段としてだった。CNTで作った円盤は普通の物質では遠心力で壊れてしまうような高速で回転させることができる。高速で回転すると、そのぶん大量のエネルギーが貯蔵できるのだ。その蓄積量は、化学反応を使ったリチウムイオン電池とは比べものにならない。「大量に貯めておくことができない」という電力の欠点が解消され、太陽光や風力のような再生可能エネルギーの、不安定で需給タイミングが一致しないという弱点を補った。巨大な発電所は過去のものになり、再生可能エネルギーのみで火力や原子力に頼っていた時代よりエネルギー的に豊かな生活が送れるようになった。
宇宙太陽光発電所の膨大な電力は、主に宇宙空間で使われるようになった。そのエネルギー供給こそ、日本の主要な輸出品目になったのである。
もうひとつが、核エネルギーである。巨大なエネルギーだが地上で使うには問題のある核エネルギーは、紆余曲折の末に、宇宙空間でのみ使われるようになった。
日本は、ある意味核エネルギーを独占したのだ。
エネルギーを豊富に使えるようになって、月軌道より向こうは日本の独壇場になった。
ほかの国家や大企業もいくつかのコロニーを築いていたが、マンパワーで勝る日本が圧倒し、火星は独自の経済圏になった。
世界は半信半疑のまま、日本だけが火星植民地を拡げるのに躍起になっていた、
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