第五話 ルイエス3

「おい瑞樹、少し話がある」

 昼休み早々、瑠衣は瑞樹の机の前に立ち、そう言った。

「えっ、えー……う、うーん」

 瑞樹は言葉を濁す。恐らく、初日のあれを彷彿とさせたからだろう。だがそれも含めて、瑠衣の作戦通りだった。

「行くぞ、ついてこい」

「なんか、前にもあった気が……」

 瑠衣が先導すると、瑞樹は曖昧な返事をしながらも席を立ち、後ろからついてきた。やはりこの男、少々強引な子と相性がいいな。となると、プランを少し変更してみるのもいい。瑠衣はそんなことを思っていた。

 人気のない場所を探し歩いていると、とある空き教室があったので二人は中に入った。志乃が追ってくることも考えて、戸を閉めておく。これで盗聴されることはない。二人きりの世界の完成だ。

「……で、話って?」

 瑞樹は怪しげに辺りを見渡して、そう訊ねた。

 それに対して瑠衣は、いかにも申し訳なさそうな顔になって言う。

「この前は……ごめん」

「……あ、うん。別にいいけど」

「それだけ言いたくて」

「……え? それだけ?」

 ぽかんとした様子の瑞樹を見て、瑠衣は内心でにやけた。普通の少年ならば、可愛い子の押しに弱いのだから、許されない筈がない。

「そ、それだけ伝える為にわざわざ?」

「うん。悪いね」

「いや、むしろ安心したと言うか……うん、なんか、よかったよ」

 瑞樹は緊張していたのか、肩の荷が下りた様子でいた。

 そう、前回の積極的な姿勢とは打って変わり、今回の瑠衣は知的な冷静さを携えている。いわゆる、ギャップだ。ギャップ萌えってやつだ。

 加えて、美人に呼び出されたことにより、瑞樹の友人たちの間でも噂になるだろう。すると、こちらのプランが実行しやすくなる。それもこれも全て、作戦だ。

「じゃ、僕戻るね! 昼休み中にご飯食べたいし」

「ああ、私もだ」

 教室の外から志乃の気配がする。やはり追ってきたようだが、天使に盗聴の力はない。あったとしても、志乃は下界で積極的に能力を使うことを避けている。まぁ仮に、瑞樹から聞いたとしても、大したことはしていないしな。

 二人教室から出て、先に行った瑞樹を見送りながら、瑠衣は隠れている志乃に声をかけた。

「二か月もの間、何をしていたのかは知らんが、ここから追い抜かせてもらうぞ」

 瑞樹の姿が見えなくなると、物陰から志乃が出てきた。いつもと同じようにへらへらした余裕の表情でいて、そこから心情は読み取れない。

「相手にとって不足なし、ってやつかな。君に追い抜かれるとは、思ってないけれど」

 癪に障る野郎だ、今に見ていろ。悔しがる姿が目に浮かぶぞ。瑠衣はあえて何も言い返さず、ふん、とだけ言って教室へ向かっていった。

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