第10話 MoppingUp-掃討-
「とても親切な子だったんだけどねぇ…
あんな事に巻き込まれるようになっちゃあ
世の中物騒になったもんだよ」
溜め息を吐きながら老婆は
この世のムジョウを嘆いた。
彼女は新田が越してくる前から
ここに住んでいた隣人であり、
個人主義が蔓延した現代では珍しく
困った時にはお互いに助け合えるような
関係性だったという。
「そうだったんですか…」
俺はまるで親しい間柄であったかのような
口調で答えたが、
彼女の何とも無念そうな表情を見ていると
友人だと偽って話を聞いている事に
罪悪感が滲み出てきた。
「……やっぱり世の中物騒になったのは
薄情になったせいだよ、
まるで待ってたみたいに
清掃業者が隣に入ったと思ったら、
今度は警察や新聞社…
人が死ぬのを心待ちにしてるみたい
じゃないの…」
老婆は心底ウンザリといった感じで呟いた。
突然、親しくしていた人間を失い、
平穏な日常がそれを歓迎するような
他人によって
破られれば悪態も吐きたくなる
気持ちは痛くわかる。
だが、同時に違和感を感じれば
容赦なくその根を引き抜かずにはいられない
自分自身にも辟易する。
「……すいません、警察が入る前、
清掃業者が入ったんですか?」
実際、こんな考えの足りない質問をした後、
後悔が胸に広がった。
「えっ…えぇ、何人かが部屋の中に入った後、
ダンボールを抱えて出ていったけど…」
老婆も突然そんな事を聞かれたので
一瞬戸惑ったが、無礼な質問に答えてくれた。
「…………」
もう少し詳しく聞きたい、
だが、若者の死を悼む気持ちを
踏み躙るような事はしたくない。
そんな気持ちを察してか、
詳しい事情を話してくれた。
「作業着と帽子を被った人達が
廊下を歩いてたもんだから、
誰か引っ越すんですかぁって聞いたら、
違います、僕達は清掃業者です
っていうもんだからよく覚えてるわよ。
ホラ、孤独死とかで部屋の
遺品整理とかするじゃない?
どうも他人事とも思えなくて…
でも、まさか新田くんの部屋だったなんて
……ねぇ」
世の中どう転がるかわからない、
だから諦めるしかないじゃないと
言いたげだったが、
そう言っても良しない事だと
老婆はそれ以上、言葉を継がなかった。
俺は重要な手掛かりをくれた
彼女にお礼を言い。
新田が暮らしていたという家を後にした。
そして、真っ先にそこを
管理しているという会社や大家に
“清掃業者”の事を聞いてみると
不気味な事がわかった。
誰一人としてそんな業者に依頼した事も
その日に作業がある事も
聞かされていなかったという。
では、“清掃業者”は
新田の部屋で何をしていたのか?
それには1つ思い当たる節があった。
この前、小田さんから聞いた
新田の部屋にある棚はまるで
入っていたモノを抜き取られたように
荷物が無かったという証言と合致する。
“清掃業者”は新田の私物をダンボールに詰めて持ち去ったのだ。
だが、それがわかったとしても
奴らが誰で何のために荷物を持ち去ったのか
とんと検討がつかないし、
新田が不在で警察が踏み込む前という
タイミングに現れた事も気になった。
加えて…
タッ…タッ…タッ…タッ…
タッ………タッタ…タッ…
あの集合住宅を出た直後から
誰かに尾行されていることも気になった。
タッ…タタッ…タッ…タ…
俺自身もあんまり上手い訳ではないが、
それにしても動き素人臭すぎる。
こちらに気取られない事ではなく
対象を絶対に見逃さない事に
精神を尖らせているようだ。
実際、何度か足を止めてみると
追跡者の地位を保つために
慌てて止まり出すのだから
笑ってしまいそうになる。
タッタッ…タッ…タッ…タタッ…
とはいえ、付き纏われたままでは
どうも煩わしい。
尾行を巻かないとな…
ここは住宅地だやり様はいくらでもある。
そんな事を考えながら足音から
相手との距離感を察る
タイミングさえしくじらなければ
素人を巻く事など容易い。
…………今だ…
特に前触れも無く始まったと
相手は思った事だろう、
突然の疾走に反応が遅れた事が
音で伝わってきた。
ダッ!タッタッタッタッ‼︎
全速力で曲がり角を曲がり続ける。
勝手知った場所ではないので
無闇に進み続けては行き止まりで捕まるので、
用心しなければならないが場数が違う。
ガッ!ズザァッ‼︎
ある程度距離が開いたのを見計らって
公園の柵を乗り越え、
姿勢を低くする事で身を潜めた。
…タッ…タッタッダッ、タッ!タッタッタッ…
タッタッ…タッ……………
どうやら巻いたみたいだな。
ハッキリと姿を見た訳ではないが
俺ほどのプロともなれば
音だけでハッキリとわかるモノだ。
そんなプロとしての
誇りと自覚を噛み締めながら
服についた汚れを払い立ち上がる。
あの男が何者か気になるところだが、
相手より上手である
優越感にニヤニヤしていると
「………………」
視線の先に小さな男の子が
口をあんぐりと開け、
驚愕の表情を浮かべていた。
「………」
「………………ママァ〜‼︎」
異様な大人を見ればそうなるのも必然だ。
特にソイツが満足そうな笑みを
浮かべていれば尚のこと、
男の子は泣き叫びながら
斜向かいの家に走り去っていった。
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