狭間部屋にて会談中

ポコ助

Day1 生と死の狭間 前半

「おはよーございますぅ」


 目の前に黒髪ツインテールで小柄の美少女がいる。


 首に銀のチェーンのネックレスを身に付けている彼女はピンクの生地を基調としたパーカーを着ている。肩から胸元にかけて黒いフリルがふんだんに使われており、黒のミニスカートからはスラリと美しい太ももが伸びていた。


 太ももから下に目をやると白いレースの入った靴下にピンクの厚底ブーツを履いている。まさに地雷系女子そのものだった。


「う、あ?」


 燈屋は突然の地雷系美少女の登場やその他もろもろのことで脳が混乱したのか呂律が回らず上手く言葉を発することに失敗した。


 本当にどうなっているのだろうか、さっき家のドアを開けて学校へ登校しようとしていた筈なのだがいつの間にか真っ白な床に寝転がってそれを同年代ぐらいのたれ目美少女に見られている。


「突然で申し訳ないんですけどぉ」


 ツインテールの美少女は形のいい眉毛を下げ、如何にも困っちゃったといった顔をして白くほっそりとした手をほんのりと色づいている頬に当てる。


「あなた今死にかけてますぅ」


 先程の表情は何処へやら満面の笑みでこちらに顔を近付けてきた。


 ──ん?今この子なんつった?


「ご、ごめん。もう1回言ってくれる?聞き間違えたから」


 美少女の肩を遠慮がちに触り優しく後ろに押し、起き上がる。床も壁も天井も真っ白だったからか彼女の艶のある長い黒髪がよく映えている。


「だーかーらーぁ、あなた死にかけてますよぉ」


 高くて可愛らしい声を張って同じ事を繰り返してくれた。聞き間違いではなかったらしい。


「……これ、夢?」


「難しいこと言いますねぇ。んー、半分夢半分現実といったところでしょうかぁ。信じられないならとりあえずつねってみたらどうですかぁ?痛いでしょうけどぉ」


 言われるがままに二の腕をつねる。


 痛い、じゃあこれは何だ?現実なのか。


「……は?」


「ここは神様の創った中途半端な人達が集まる部屋なんですぅ」


「は、」


 吐息が零れる。ガツンとフライパンで頭を殴られた気分だ。


 ──中途半端ってなんだ。何を言っているのか分からない。俺は何で死にかけてる?何も、思い出せない


 ぽんと後ろから肩を叩かれる。


「やっほー、説明は我がするよ」


 中性的な声が頭に響く。目の前にいる美少女ではなさそうだ。彼女は意地悪げに微笑しているだけで口は動いていない。では後ろにいるのは何だと恐る恐る振り返る。


「ばぁ」


 後ろにいた"何か"には首から上がなかった。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


 正確にはあるべき場所にあるべきものがなかった。白い衣を纏った首なしの両の腕に顔の原型を留めていない血濡れた頭を抱えている。頭は血塗れなのだが不思議なことに胴体に血は一滴も付いていない。それが余計恐怖を煽ってくる。


 怖くて腰の力が抜けて尻もちをつく。がくがくと足が震える。首なしは一歩こちらに踏み込みしゃがんだ。


 その首なしの腕が持っている頭の燈屋が凝視している部位がめきめきと裂けるような気色の悪い音をたて唇があらわになり、肩を叩いた時と同じ澄んだ声で燈屋に話しかけてくる。


「驚いた?」



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 真っ白の空間に一人の青年の割れんばかりの悲鳴が響き渡った。



 ▫▫▫▫



 ふぅとため息を着く。


 びっくりして腰が抜けてから約一分、未だに立つことができない。


 燈屋は怖いものが大の苦手で一度お化け屋敷に入ってからはトラウマになりもう二度と入らないと心に決めるほどだった。故にこれは仕方がないことなのだ。


「いえーいドッキリ大成功!」


「いえーいですぅ」


 目の前にいる首なしと美少女はいたずらが上手くいったクソガキのようにハイタッチをした。なんだコイツら。


「安心して康邦燈屋やすくにとうや、これ元に戻せるから」


 そう言って持っている血濡れた頭を元の場所に戻した。切断した所にくっついた途端に傷が綺麗さっぱりなくなった。


「うぉぉ……」


 背筋がゾワゾワする。血がついていたはずの顔には血が消えて中性的で凛とした美しい顔面が張りついている。所々見え隠れしていた頭皮は瑠璃色の髪で覆われていった。幻でも見ていたかのようだ。


 彼は首を軽く振り髪の隙間から三日月の形をしたピアスがみえる。


「さっきから一言二言しか言いませんねぇ。幼児退行しちゃったぁ?」


「してないわ!こんなこと起きたら誰でもびっくりするだろ」


「ちゃんと喋れたんですねぇ。良かったですぅ」


 ──この黒髪美少女!調子に乗ってんじゃねえあざと系の超可愛い美少女が!!


 怒りが湧いてきたら足の震えも止まり立てるようになった。


「ってかそこの青髪ピアスの人なんで俺の名前知ってるんだよ」


「あ、我名前ない神だから好きなように呼んでくれて構わないよ。君の名前を知っているのは我が君の記憶を見たから」


 男は自分の頭を指さし誰でも分かるように説明してくれた。彼はいつの間にか白い衣から現代風の白いTシャツにジーパンという服装に変わっている。


 どこをどう見ても平均身長より少し低くて少し顔の良い人間の男にしか見えない自称神を燈屋は見下ろす。


「私は神様の助手のアイラですぅ。よろしくね燈屋クン」


 美少女にはアイラという可憐な名前があるようだ。彼女は人間なのだろうか。はたまた美少女の皮を被った人外の化け物なのだろうか。そんな事実知りたくもないので聞かないようにしよう。


 差し伸べられた手を燈屋はやんわりと拒否する。


「あんたたちには悪いけど俺はよろしくする気はないから。さっさと元いた場所に戻してくれよ。神様なんだから死にかけてることぐらい何とかなるんだろ?」


「わっ、急に饒舌になったぁ」


 アイラの茶々入れには無視する。話をそらされたくないからだ。自称神の返答を待つ。


「期待に添えなくてごめん。無理」


「無理なの!?」


 自称神、これからはエセと呼ぶことにしよう。エセは頭を下げてから説明を始めた。


「ここはアイラが最初に言った通り生と死をさまよっている魂が集まる部屋なんだ。我は狭間部屋って呼んでる。今は真っ白だけどこんなこともできるよ」


 といいエセは長い指を鳴らす。


 すると辺り一面真っ白だった空間に色が着き始める。それらは少しずつ少しずつ歪み混ざりを繰り返す。そうして見覚えのある学校のイスになり、机になり、黒板になり、そして最終的には教室になった。


「どうなってんの……?」


 燈屋は右端の自分の席の机の中を見る。教科書やノートが乱雑に詰め込まれている。覚えている通り昨日の放課後の状態と同じだったので恐らく燈屋の記憶の中の教室を再現しているのだろう。人間ももしかしたら再現できてしまうのかもしれない。


「ふーん。燈屋クンの教室はこんな感じなんですねぇ」


 アイラは花瓶や黒板のチョークを眺めて、感心したかのように細々とした部分を見ている。どこに感心する要素があるか燈屋には理解出来ず眉をひそめる。


「いやぁーこんなにくっきりと映るのはだいぶ久しぶりだよ。康邦燈屋ってよく周りを見てるんだね」


「なんで急に褒めんの?」


「だってこれ君が予測したように記憶を再現してるからさ、記憶があやふやな部分もそのままでちゃうわけ」


 成程と燈屋は納得した。周りを見てみると確かにぼやけている部分がない。教室では友達と喋る以外ではぼーっと眺めていることが多かったので無意識に覚えていたのだろう。


「じゃあ話を戻そうか」


 エセは教壇に上がって黒板にもたれかかり話を再開した。


「今からさまよえる魂をあと三つここに集める」


 彼はビシッと三本の指をたてる。燈屋は顔をしかめた。


「……何のために?って顔ですねぇ」


 チョークをいじるのを辞めたアイラがエセの傍に近づき燈屋の気持ちを代弁する。無言は肯定であると受け取ったエセは続ける。


「実はね、我の上司的なポジションの神から何してもいいから人間の数を調整してこいって言われててね。我は頑張って仕事をする為に集めるんだ」


「それは燈屋クンの求めてる答えじゃないですねぇ。つまり、人間の数を調整する為にさまよえる魂を集めて話合わせてその四つの中から一つだけ復活させてあげようという話なんですぅ」


「他の三つの魂はどうなるんだ?」


 アイラは頭を捻り確証がなさそうに恐らくですがぁと切り出す。


「消えてなくなっちゃう、いえ、死んじゃうんじゃないでしょうかぁ。人間の数を調整するための尊い犠牲ですぅ」


「!!」


 驚きのあまり声が出ない。それと同時にふつふつと湧き上がる激情が脳を支配し、拳を強く握りしめる。


 ──突然知らない所へ飛ばされて今度は死ぬかもしれない?冗談じゃない


「どうしてこんな方法にしたんだ?もっとやりようはあるだろ……!」


 純粋な疑問と怒りをエセにぶつける。彼はにっと笑い白い歯をみせる。


「我は人間が大好きなんだ。窮地に陥った時どんな表情をしてどんな行動をするのか知りたい。人間の個々の本性、価値観、欲望全てを知り尽くしたい。何してもいいって言われたんだ。だから君は今日から我の被検体ペットだ。よろしくね、康邦燈屋」


 鉄の重い重い鎖をつけられる錯覚に陥る。


 燈屋はエセの純粋無垢な少年のようなキラキラした瞳と甘ったるくてどこか冷めた声に温度差を感じて鳥肌が立った。そして目の前にいる神の狂気の一端をこの目で見て恐怖した。


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