『迷探偵 探田マヨイ』の事件ファイル

KAORUwithAI

第1話迷探偵、登場す。

「……あの、失礼ですが、本当に探偵の方ですよね?」


午後の紅茶の香りが漂う、雑居ビルの一角。

ドアの表札には手書きの文字で《探田探偵事務所》と書かれていた。

その中にいたのは、白いシャツに赤いスカーフを巻いた女性。ソファに胡坐をかき、ホットケーキを平らげていた。


「うむ。それはわたしのことだ。迷いながらも真実にたどり着く探偵、**探田マヨイ(さぐりだ・まよい)**である!」


「……“迷いながらも”?」


依頼人の佐伯ミナは不安そうに眉をひそめた。

若く聡明な印象の彼女は、黒いスーツ姿に身を包み、どこか場違いな空気を放っている。


「で、どういったご依頼かの? 遺失物? 浮気調査? それとも呪いの解呪かの?」


「呪いじゃありません……祖父の、遺言状が消えたんです」


ピクリと、マヨイの眉が動く。


「……ほう、面白い。亡くなった方の言葉が、現世から消えたわけじゃ。ロマンチックな失踪事件だのう」


「いや、ロマンではなくて……私、見たんです。祖父が生前、封筒に“遺言状”って書いて、大切にしまっていたのを。でも亡くなって、葬儀も終わったあとで、家族で探したのに見つからなくて……」


「盗まれたか、燃やされたか、猫がくわえていったか。可能性は無限じゃな。うむ、名探偵の血が騒ぐ!」


「……さっき“迷探偵”って自称してましたよね?」


「ふふふ、迷ってこそ道は開けるのじゃよ。探偵とは、地図のない旅人なのじゃ。だからまず、最初に疑うべきは」


マヨイはぴしりと指を立てて言った。


「執事じゃな!」


「……あの、それ、まだ話してませんよね。祖父の家に執事がいるって」


「おるじゃろ。資産家の家には、だいたいおる!」


「決めつけで話さないでください……」


苦笑いするミナに、マヨイは立ち上がってにやりと笑った。


「よろしい。では、さっそく屋敷に参ろうかの。

遺言状は、風に乗ってどこへ消えたのか

わしがこの足で、追いかけてくれるわ!」


その日、迷探偵と依頼人の珍道中が、静かに始まった。


推理は外れても、歩みは止まらない。

それが、**探田マヨイ(さぐりだ・まよい)**なのである。

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