#2 -1章

...6年前の話だ。


とある平和な小さな島が、深い闇に包まれた。


島は赤黒い雲に覆われ、周囲の海には嵐が吹き荒れた。


他の国の金持ちが、プロの船乗りと航海士を雇い、頑丈な船で島へと行かせた。


出航からしばらくして、船から伝達魔法が届く。


「島に上陸したぞ! 波は荒いが、ある程度の船乗りなら越えられる!」


この伝達メッセージに全員が顔を青ざめた。


船の乗員に、魔法が使えるものはいなかった。


そのうえ、長距離での伝達魔法テルドは、数十年その魔法だけを練習しても


不可能といわれるほど難易度が高い。




成す術なく半年が経過した。


紅葉の美しい秋の出来事。


小さな島の周囲4か国が赤黒い雲に飲み込まれ、それと同時に雲が消えはじめた。


消え切らず霧のようになった赤黒い雲の向こうに、紅葉はなかった。


図鑑にも載っていない生物が、人に唸り、人を襲う。


この異様な事態に、世界全体はこの謎の生物を駆逐し始めた。


決して強くはなく、順調にことは進んでいた。


数か月が経ったときのことである。


今まで唸るだけだった謎の生物は、とうとう人語を話すようになった。


「ジュウ」「ソコニイル」「モウオワッタ」


唸るように話すその言葉に、意味などは込められていなかった。


しかしこれは、違う最悪な可能性を示唆していた。


現実は無情だった。


彼らの脳は、発達が非常に速かった。


翌年の春。彼らの話す言葉に意味が込められ始めた。


「助けて」「やめて」「撃たないで」


こちらが銃口を向けると、懇願するように叫んだ。


初夏。彼らには感情が芽生えた。


追い詰められ泣いたり逃げたり、味方を殺され怒ったり叫んだりした。


彼らが姿を現し、1年も経っていない。


彼らは火を使うようになった。


多くの家や森を燃やした。


世界中が恐怖に陥ったとき、勇者が現れた。


勇者は彼らを単独で倒し、その元凶と立ち向かった。


しかし、現在から4年前、勇者は姿を消した。


勇者がいなくなってしまったため、元凶である魔王を止められず


世界は段々と滅ぼされていった。




この世界には、人の生死を確認できる魔法がある。魔法学校の一人の生徒が、


授業の一環で勇者の生死を確認した。


勇者は生存していることが分かった。


この情報は瞬く間に世界へ広がり、数々の魔法使いが同じ魔法を使ったが、


結果は変わらなかった。




これが現在勇者が嫌われている理由である。


勇者が戦わなかったせいで全てを失った人だっている。


嫌われてしまうのは無理もない。

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