第24話 戦闘後

「双方とも、1人も血が流れなくて良かったわね」


 機雷戦が行われた3日後。オフィル市の事務総局庁舎の事務総長室。オンライン会議で火星共同警備隊の元副司令官、現在の総司令官から報告を受けた事務総長は、ホッと胸をなで下ろした。


 中国・インド両軍の艦隊は、火星共同警備隊の巡視船艇による監視の下、火星周回軌道に入り、火星臨時政府に投降した。


 投降した両軍の現場指揮官によると、今回の派兵は急遽決まったもので、機雷敷設の情報がないまま、全速力で火星を目指し、火星共同警備隊の態勢が整う前にこれを撃破、火星を封鎖するという作戦だったようだ。


 両軍の参謀本部や現場指揮官からは、機雷敷設の危険性について懸念の声が上がったものの、政府や軍の上層部からの強気な意見に押し切られ、作戦が強行されたようだった。


 当然、現場指揮官をはじめとした将兵の戦意は低く、両軍の上層部は機雷群による攻撃の報告を受けてもなお戦闘継続を求めたようだが、最終的に降伏したということだった。


 中国・インド両軍の艦隊の降伏を受け、火星臨時政府は両軍の艦艇を捕獲。中国・インド両国に対して、火星に対する武力攻撃の停止を求めた。


 これに対して中国・インド両国は、火星臨時政府自体が認められず、これは内政問題であると主張したが、緒戦でかなりの戦力を失ったこともあり、外務局によると、態度を軟化しつつあるということだった。


 その翌日、アメリカが火星の独立を承認。それに続き、日本及び欧州連邦も独立を承認した。


 中国とインドは、未だ独立を承認していなかったが、火星の鉱山に対する鉱業権の設定や、捕獲艦の取扱いについて具体的な交渉に応じ始めた。



† † †



「本当に辞めるのですか?」


 資料調査部調査第2課の執務室。荷物を片付ける桐野に、未だに信じられないという様子でカタリナが聞いた。


 桐野が机の中から私物を取り出しながら言う。


「いくら火星独立のためとはいえ、私は散々悪行を働いてきたからね。どこかでケジメはつけなくちゃね」


「……ハラキリとかしないでくださいね?」


 カタリナが少し心配しながら言った。桐野が笑う。


「ははは、大昔のサムライじゃあるまいし。さすがに切腹する勇気は私にはないよ。痛いの苦手だし」


「私の実家が居酒屋なんで、その後を継ぐつもりなんだ。火星独立戦線のメンバーとかを雇って、細々と生活するつもりさ」


「なんだ、心配して損しました」


 カタリナは、呆れたような少し嬉しそうな顔をした。


「よし、お片付け終了。それじゃあカタリナさん、今までありがとう。お元気で。落ち着いたら店に来てよ」


 桐野がカタリナに居酒屋の名刺を渡した。カタリナが笑顔で答える。


「こちらこそありがとうございました。必ず行きます。安くしてくださいね!」


 桐野は嬉しそうにうなずくと、荷物を詰めた小箱を抱え、執務室を出て行った。

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