第13話 敷設船 マレア

 篠原が居酒屋キリちゃんで愚痴っていた頃、火星周回軌道上の火星共同警備隊基地では、設船せつせんマレアの敷設員であるむら洋介ようすけ2等兵曹が、敷設員詰所で出航前の搬入作業を行っていた。


 作業と言っても、ほとんどが自動化されているため、仮想操作卓に映し出される受領書と搬入物のデータを突合する程度だ。


 村田は仮想操作卓にニュース画面を出しながら、横目で適当に突合作業を行っていた。


 ニュースによると、地球からの招待者は、火星到着後、火星最大の都市であるアメリカ領オフィル市と、その近隣都市である日本領カセイ市に分泊し、バイキング1号着陸記念公園、オリンポス山、マリネリス峡谷等の観光を楽しんだそうだ。


 村田はカセイ市出身だ。バイキング1号着陸記念公園は、カセイ市から比較的近くにあり、村田も子どもの頃よく遊びに行った思い出の場所だ。


 招待者が楽しそうに公園で遊んでいる画像を見て、何だか村田も嬉しい気持ちになった。


 今日の昼に行われたセレモニーに出席し、一連の行程を終えた招待者は、明日の夜、地球への帰路に就く。


 往路のミサイル攻撃事件を受けて、地球へ向かう船団の警備が強化されることになり、警備隊最大の巡視船オリンポスの他、最新鋭の高速巡視艇4隻が、地球までエスコートする予定だ。警備隊の巡視船艇が地球にまで行くのは極めて異例だ。


 そして、敷設船マレアは、船団に先行して出航し、火星-地球航路の監視体制強化のため、従来はメインベルトを中心に配置していた無人観測機を同航路に敷設する予定だ。


 無人観測機は、巡視船艇のような航宙能力はないが、指定された軌道を長期間維持し、各種センサーにより監視業務を行うことができる。


 今回は、敷設船マレアの最大積載量ギリギリの無人観測機20機を一気に敷設する予定だ。


 村田が仮想操作卓のニュース画面を閉じると、搬入終了間近の連絡が作業ロボットから入っていた。


「さてと、一度くらいは目視で搬入状況を確認してみますかね」


 村田は、そう独り言をつぶやくと、船外作業着に着替えて、与圧されていない格納庫へ向かった。


 自動化された搬入の目視確認は、原則不要だ。今まで目視確認なんてしたことはなかったのだが、今日は何となく見に行ってみようと思った村田だった。



† † †



「え、これは一体?!」


 格納庫に入った村田は、目の前に広がる光景に絶句した。


 搬入された無人観測機は3機だけ。残りは、すべて無人観測機に外見がよく似ているが一回り小さい自動追尾型機雷だった。


 作業ロボットが、マレアに横付けした無人コンテナからマレアの格納庫へ黙々と機雷を搬入し続けている。作業ロボットは無人コンテナ内の無人観測機と機雷を誤認したのだろうか。


 受領書と搬入物のデータ突合を適当にしていたので、気づくのが遅れてしまったようだ。これはマズい……


 村田は、慌てて仮想操作卓で直属の上官である黒人の敷設長を呼び出した。


「敷設長、す、すみません!」


「あ、村田君か。今どこにいるの?」


 仮想操作卓に敷設長の顔が現れた。村田が慌てながら説明する。


「格納庫です。たまたま目視で搬入を確認しに来たところ、搬入ミスに気づきました……申し訳ありません!」


 出航まであと1時間。搬入をやり直すとすると、出航が大幅に遅れてしまう。村田は敷設長の画像に向けて大声で謝った。


「ちょっと船長室に来てくれる?」


 敷設長は驚いた顔でそう言うと、すぐに仮想操作卓の画面を切った。こんなことは初めてだ。よっぽど怒っているのかもしれない。


 村田は、船外作業着を脱ぐと、足取り重く、船長室へ向かった。

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