クローゼットが異世界につながったので、週末は勇者で聖女な冒険者してます!
あずま八重
第1話 夢みた世界で
あるとき、センセイがこう言った。
『この世界がそんなに嫌なら、別の世界で過ごしてみるかい?』
いつも話してくれる夢物語の世界に行けるんだ! 胸が高鳴るままに、あの日の私はセンセイが軽快にノックしたクローゼットを何の疑いもなく開けた。
「少しの間、おもしろ楽しく自由に過ごしたかっただけなのに。それだけで良かったのに!」
「リーサ様。そんなに此処がお嫌いなのですか?」
聖王側の従者、セシルが私の手を取って見つめる。
スラリとおろした長い銀髪、白い肌に乗った青い瞳。これで耳が尖ってさえいたらエルフに違いなかったのにと思う、白いシスター服を着た美人。
だから、つい言ってしまうのだ。
「嫌いじゃないよ。美味しいものもたくさんあるし」
美味しいのは事実だし、あながち間違ってもいないのだけれど、論点はきっとそこじゃない。
「はっはっは! リーサ殿は男や冒険よりも食い気ですかな」
「ゴルダ。それ、盛大なブーメランだからね」
豪快に笑う武王側の従者に、冷ややかな視線を返した。
茶に近い赤色の短髪と、顎に伸びる無精ひげ。筋肉質な体型を、冒険者然としたプレート装備で覆っている。強面だが、目元を彩る金色はとても優しい。
皮肉が伝わっていないようで、「ぶうめらん、とは何ですかな?」などと首を傾げている。
「色ボケで、三度の飯より冒険大好きなくせに。という意味かと思いますよ、ゴルダ卿」
「おやおや。シスター・セシルともあろう御方がそのような毒を吐かれるとは。リーサ殿に変な影響が出たらどうします」
「なッ……リーサ様に気安く触るんじゃありません!」
「おや、嫉妬ですかな?」
「ストップ、ストーップ! そこまで!」
後ろから両肩に置かれたゴルダの手を払い、待ったをかける。
2人の喧嘩はウンザリするほど長くなるのだ。街中でならまだしも、ここは魔物の巣の近く。そんなところで始められてはたまらない。――んまぁ、初めに騒いだのは私なんだけど。
これで2人は付き合っているというのだから、そこに挟まれる私の心中も察してほしい。せっかく心の栄養になる推しカポーだったのに、もう少し距離がないとじっくり愛でられないじゃないか。
「で。今回のクエスト達成条件は
「リーサ様、どちらもほぼ同じですわ」
「野良家畜さんの生け捕り。捕獲くえすと、だ」
「うわーお。このパーティーの苦手分野じゃん」
「手心は存じ上げていても、加減ができませんものね」
「熟練度差があっても無くても、なんてところが、さすがの俺も恥ずかしい限りだよ」
馬鹿ぢからのゴルダはまだしも、セシルまで高火力になるとは思わなかった。
「では、此度の依頼
「言われるまでもありません」
セシルは私とゴルダの手を取ると、聞き取れない速さで呪文を
洞窟に入り奥へ進むと、広い空間に出た。天井がポッカリ空いているからか緑が
「ねぇ、何あれ」
「今回の捕獲対象、〈メェ〉と〈メイメェ〉だ。モコモコしてるのがオスでメェ、ホッソリしてるのがメスでメイメェさ」
「見た感じ、ただの可愛いヒツジとヤギなんだけど。これのどこが問題なの?」
「女と一緒で、見た目で判断してると痛い目見るぞ」
言ってすぐセシルのジト目に気付いたのか、ゴルダは咳払いを1つしてから続ける。
「メイメェ1頭につき必ずメェ2頭が
しみじみ語るゴルダの言葉に、セシルが静かに2度うなずく。農家出身と聞いた気がするから、そのころの苦労でも思い出しているのかもしれない。
――ええと。
今はどちらのケモノも、草を
「で。どう捕獲するの?」
「まずは頭数を数えなけりゃ。メェがメイメェの2倍居れば、そのまま帰る。メェが少なければメイメェを、逆ならメェを連れ帰る。ちょうど群れ3つに分かれてるし、手分けしようや」
「わたくしが多い群れを担当しますわ。慣れてますもの」
「オッケー。ねぇゴルダ、私数えるの苦手だからメイメェ担当していい?」
「構いませんぞ」
セシルはすでに数え始めている。ただでさえ頭数が多いというのに、これで待たせることにでもなったら申し訳ない。
「さぁて。さっさと数えて間引くとしましょい!」
「リーサ殿。言い方、言い方」
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