世界を統べるは我らが魔皇帝~転生したら魔王を使役できるチートユニットの魔皇帝に転生したので、前世でよく使っていた美少女魔王たちを召喚したら記憶を引き継いでいて忠誠心がカンストしてた~

水本隼乃亮

第1話 転生先がシミュレーションゲームの指導者ユニットってどこのテンプレ?

「きゃあああああああああ!」


 薄れゆく意識の中、甲高い悲鳴が聞こえた。


 人気のない真夜中のコンビニ。

 自動ドアから、目出し帽を被った男が慌てた様子で走り去っていく。


 彼の手には包丁が握られており、その刃先にはべったりと赤い血。


 そこから垂れる血の跡をたどっていくと、無様にうつ伏せに倒れている俺のもとへ辿り着く。


 そして、俺の隣には先ほど悲鳴を上げた人物、すっかり顔見知りとなったバイトのお姉さんが立っていた。


 まぁ、コンビニ強盗ってやつだな。

 その現場にばったり出くわした俺は、その時たまたま興奮状態にあった。


 なにしろ、数年間プレイしていたゲームでとうとう世界一位となったんだ。

 これまでの平凡な俺とは違うぞという変なテンションと深夜テンションが混ざり合った結果、勇敢にもコンビニ強盗に立ち向かい、あっさりと腹を刺されたってワケ。


 いやぁ、刺された場所が熱い熱い。

 視界も暗くなってきたし、なんだか眠くなってきた。


 腹部からドバドバと流れる血液が、口元まで流れてるんだ。

 これはもう、助かる見込みはないな。


(……まぁ、別にいいけどな、こんな人生だし)


 俺は、とある会社の社長の長男として産まれた。

 まぁ御曹司ってやつか?


 だが、そんないいもんじゃない。

 うちの会社は結構な田舎にあるこじんまりとした会社で、社員も50人くらいのもんだ。

 そして親父の跡を継いで社長となった俺は、今でも親父の操り人形。


 社員たちも隠居した親父の言うことしか聞かないし、まぁ、お飾り社長ってやつだな。

 なにか会社で問題ことを起こしても、俺を切って親父が社長に戻れば万事オッケー。

 要は、俺は親父にとって残機の一つでしかないのだ。


 そんな人生が、生まれた時から決まってたんだぜ?

 俺が自分の人生に絶望するのにそこまで時間はかからなかった。


 だから、ここで死ぬのに別に未練はない。

 あ、でも一つ、やり残したことがあったな。


(魔王に、なりたかったな)


 あ、笑ったか?

 だが、こっちは大真面目だ。


 魔王ってさ、カッコいいだろ?

 自分のしたいことを貫くために、自分の力で世界を敵に回す。


 産まれてから死ぬまで親父の言いなりの俺とは正反対だ。


 だから俺は、魔王に憧れた。

 自分の力で、自分の夢を叶えるために生きる、そんな魔王が。


 だけどまぁ、そんな夢が叶うことなく、俺は死ぬらしい。


 あ、ダメだ。

 もう何も聞こえないし、馬鹿みたいに痛かった刺された場所の痛みも無くなってきた。

 指先すら動かせない、瞼も重い。


 はぁ、俺の人生、しょうもなかったな。

 

 せめて、俺に来世があるならば――


(魔王に、なりてぇな)


 ◇


 そして、目が覚めた。


「……ん?」


 あれ、てっきり死んだと思ったが、助かったのか?

 いやはや、あんな傷で生き残るとは、最新の医療ってのはすげぇなぁ……。


「て、え? どこだここ」


 まず俺が感じたのは土の匂い。

 そして聞こえるのはさわさわと風によって葉っぱが揺れる音。

 視界に映るのは、木、木、木、木――。


「森……か?」


 ぐるりと一回転してもそこにあるのはただの木々。

 しかもなんだこの木は。こんなにぐにゃぐにゃした形のやつ見たことないぞ。


「てか、なんか視界が高いような……?」


 俺は平均的な日本人男子の背丈をしていたが、今の視界の高さはどう考えてもそれより高い。

 それに、なんだか頭や背中、腰に違和感がある。

 まるでなにかが取り付けられているような……。


「……ん?」


 無意識に頭を触っていた右手が、何かごつごつとしたものに触れる。

 なんだこれ。まるで、何かが俺の頭頂部から生えている。

 二本生えてて、結構長いな。これは……?


「ツノ?」


 真っ先に思い浮かぶのはそれだ。

 まぁ、これはどう考えてもツノだろう。

 だが、なぜツノが?


「て、は?」


 そして気付く。

 俺の背中にはまるで蝙蝠のような翼が生えている。

 しかも腰からは腕くらいの太さがある尻尾まで。


 そして、極めつけは俺の格好だ。

 黒を基調とした高そうなローブだ。


 もちろんこれは、俺のではない。 

 だがしかし、見覚えがあった。


「俺、ヴァルターになってるのか?」


 魔皇帝ヴァルター・クルズ・オイゲン。

 それは国家運営ゲーム『ミレナリズム』に登場する指導者ユニットの一人であり、俺にとって一番思い入れのあるキャラだった。


 ――ミレナリズム。

 国家運営ゲームと言われ、日本でもまぁまぁの人気を得たファンタジー世界を舞台としたシミュレーションゲーム。

 プレイヤーは百を越える国の中から一つを選び、その国の指導者となる。

 そして国を発展させ、時には外交、時には戦争を駆使し世界の覇権を狙うゲームだ。


 俺はつい最近、このゲームの世界一位プレイヤーとなった。

 そして俺が得意としていた国こそが、このヴァルターが指導者である『グリントリンゲン魔帝国』である。


 いやぁ、このグリントリンゲン魔帝国が中々のチート国家でな。

 指導者である魔皇帝ヴァルターは魔王すらも従える強力な存在であり、なんと本来別の国の指導者である魔王たちを自分の配下として召喚できるのだ。

 

 だがしかし、なんとこのつよつよ国家、プレイできるのが全世界で俺しかいなかったのだ。そう、俺だけ。

 なんでかって言うと、グリントリンゲン魔帝国を解放するには三十を越える全ての魔王国家で十勝ずつするという、難易度高すぎる条件をクリアする必要が――


「って、今それどころじゃねえ」


 なんでだ。

 なんで俺がヴァルターになってるんだ?


 死んだと思ったら別の人間として生き返っている。


 心当たりが全くないわけではない。

 俺がそこそこ見ていた深夜アニメ、それには異世界転生モノっていうジャンルがあった。


 何らかの理由で死んだ主人公が全く違う人間として生まれ変わったりゲームのキャラクターになったりしてるアレだ。

 今の俺と状況は一致している。


 だが――


「ええ……。ヴァルターに転生すんの?」


 そういうのって大体、RPGとかギャルゲーとかの悪役キャラクターに転生するのがテンプレだろ?

 なんでシミュレーションゲームの指導者ユニットに転生したんだよ。


「だけどまぁ、よく考えたら結構ラッキーじゃないか?」


 俺がなんでこんなことになってるのか分からない。


 だが、俺がヴァルターとして生まれ変わったのは事実だ。

 つまり、今の俺は社長の操り人形なんてつまらない人間ではなく、夢だった魔王に生まれ変わったのだ。


「ま、ヴァルターは魔王じゃなくてなんだけどな」


 この違い、大事だぜ。

 なんせ、ヴァルターは魔王すら従える魔の頂点に位置する存在なんだからな。


 いやぁ、何回聞いても中二心をくすぐられる設定だぜ。


「さて、これが異世界転生モノだったら、そろそろ女の子の悲鳴が聞こえてもおかしくないころだよな」


 少なくとも、俺が前世でよく見たアニメや漫画だとそんな始まり方が多かった。

 突然の転生に混乱する主人公、森に響く悲鳴、魔物に襲われる少女――。

 そんな場面に出くわした主人公が特別な力で少女を救うシーンが漫画冒頭でフルカラーで描かれているのはもはや定番だ。


「キャアアアアアアアアア!」


「って、ホントに聞こえたよ」


 陽の光がほとんど届かない鬱蒼とした森に、甲高い声が響く。


 テンプレそのままの悲鳴に一瞬どうするか悩むも、ここにずっといても仕方がないと考え、とりあえずそちらに向かうことにした。


「てかこの体、走りづれぇ……」


 身長高いし、なんかごっついブーツ履いてるし……。

 まぁ、いかにも魔王っぽくてカッコいいからよしとしよう。

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