Ice lolly5⋈③


「はぁっ、はぁっ…」

 15分後。私達はカフェとアクドナルドを駆け抜け、コンビニ前の横断歩道に着いた。


 2車線道路を挟んだ反対側の歩道にはイスタードーナッツとファミレスがある。


月沢つきさわくん、のぞむ先輩は?」

 私が息を整えながら尋ねると、月沢つきさわくんは目線でのぞむ先輩を探す。


 どうか、どうか、見つかりますように。


 2車線の道路を2台の車がすれ違い様に走り抜けた。


「…星野ほしの

 月沢つきさわくんはそう呼んで、反対側のファミレスを見る。


「あっ……」


 背の高い男の子が見えた。


 セミショートの黒髪にキャップを被り、

 穏やかで物静かな面差しに落ち着きと聡明さを漂わせていて、

 その隣には男性がいる。


「あのキャップの人がのぞむ先輩?」


「…あぁ」


「隣の人は?」


「…監察官」


 私はもう、何も言えなかった。


 のぞむ先輩が私達に気づき、見つめ合う。


 ふわり。

 月沢つきさわくんの左手が私の右手に触れた。


 ぎゅっと恋人繋ぎをする。


 優しい風が吹き、

 のぞむ先輩の髪がなびく。


 のぞむ先輩は穏やかな顔で笑った。


 月沢つきさわくんは泣きそうな顔を浮かべる。


 2車線の道路を一台の車が通り抜けた。


 のぞむ先輩と監察官の男性がイスタードーナッツの方に歩いて行く姿が見え、月沢つきさわくんは頭を下げる。


 のぞむ先輩達の背中が小さくなっていき、やがて姿が見えなくなった。


 月沢つきさわくんを見ると、顔に右手を当てて、泣いていた。

 それを見て、私も涙を流す。


 監察官がなんなのか私にはよく分からないけど、

 のぞむ先輩は監察官に四六時中見張られてる感じなのかな…。


 ねぇ、月沢つきさわくん、

 のぞむ先輩はどうして見張られてるの?

 退学にさせられたの?


 理由が知りたい。


 でも知ってしまったら月沢つきさわくんが離れて行ってしまう気がして怖い。

 だから、


 ――――お前が話したくなった時に聞くわ。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんが前にそう言ってくれたように、

 私も自ら話してくれるのを待とう。


 そして今、月沢つきさわくんに笑って欲しい。


 月沢つきさわくんが少し泣き止んだ。

 私は右手を放す。


「…星野ほしの?」


月沢つきさわくん、待ってて」

「笑顔になれるの、買ってくる」

 私はそう言ってコンビニの中に駆け入っていく。


 そして数分後。


月沢つきさわくん、はい」

 コンビニから出て来た私はサワー味のアイスキャンディーの袋を手渡す。


「…お前の分は?」


「私は大丈夫」

月沢つきさわくんと初めて外に出掛けられて」

のぞむ先輩に会えて嬉しかったから」


 私が優しく微笑むと月沢つきさわくんはアイスキャンディーの袋を破る。


 アイスキャンディーを取り出してガリッとかじり、なぜか私の顎を持つ。

 びっくりして口を少し開けると月沢つきさわくんはそのまま唇を塞いだ。


 アイスキャンディーが口の中でふわりと溶けて、

 甘酸っぱい感覚に襲われる。


 私の心に絡まったリボンが甘く弾けて、止まらない。


 月沢つきさわくんの唇が離れる。


月沢つきさわくん、人前…」


「…人前じゃない方が良かった?」


「ううん、ただびっくりして…」


 月沢つきさわくんは私の耳元に唇を近づけ囁く。

「…刺激的すぎて?」


 私の顔がボッと熱くなる。


月沢つきさわくん、も、もしバレたら…」


「…人少ないから誰も見てねぇよ」

「…アイスキャンディーのおかげで涙引っ込んだわ」


 月沢つきさわくんは優しく笑い、人差し指を自分の唇に当てる。


「…星野ほしの、今日のことは秘密な」



 夜。私は帰りの電車のソファーに座りながらスマホを見ていた。


 まだ胸、ドキドキしてる。

 いつもより帰るの遅くなっちゃった…。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんになんて言おう…。


 ガコンッ。

 車内が大きく揺れる。


 バランスを崩し、隣の男の子の肩にぶつかった。


 男の子は背が高く、クリーム色の髪をし、甘い顔をしている。


「あ、すみませ…」


「ううん」

「きみ、もしかして飾紐りぼん高校?」


「え、なんで…」


「セーラーにピンクのリボンの高校ってなかなかないし、そうかなって」


「はい。飾紐りぼん高校です」

「あなたは書庫蘭しょこら高校?」


「え、なんで分かったの?」


「お兄ちゃんが通ってて…」


 私はハッとする。


 月沢つきさわくんに氷雅ひょうがお兄ちゃんの写メ見せたらだめって、絶対秘密だって言われてたのに。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんのこと話したらマズいんじゃ…。


「へぇ。偶然だね」

「俺、天川鏡あまかわきょう書庫蘭しょこら高校3年。きみは?」


「私は星野ほしのありす、飾紐りぼん高校2年です」


「ありす?」

 天川あまかわくんが驚く。


「え?」


「いや、めちゃ可愛い名前だね」

「しかも年下かぁ。本命にしたいくらい」


 私は動揺する。

「え…」


「あー、でも俺本命作らないタイプだから大丈夫」


 それって逆に大丈夫じゃないんじゃ…。


飾紐りぼん高ってことはさ、月沢怜王つきさわれおっている?」


「あ、はい。でもなんで知って…」


「白い鳥にいっぱい呟かれてるからね」


「白い鳥ってなんですか?」


 天川あまかわくんが自分のスマホを見せてきた。


 私は驚く。

 月沢つきさわくんのことがたくさん呟かれていた。


 え、こんなに!?

 どうしよう。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんにバレるのも時間の問題かも…。


「…相変わらずくせぇ香りさせてんなぁ」

「…名前がありすで月沢つきさわの香りがするなんて」

「…月沢つきさわの女でほぼ間違いないね、ラッキー」

 天川あまかわくんは誰にも聞こえない声で呟く。


 ガコンッ。

 電車が止まった。


 天川あまかわくんは私に倒れかかる。

 そして私の鞄の脇に黒い物を落とす。


「…設置完了っと」


天川あまかわくん、大丈夫?」


「うん、じゃあ俺ここで降りるね」


 天川あまかわくんは、にこっと笑う。


「またね、ありすちゃん」

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