Secret ice lolly⋈① ぜんぶ、ほどいて。

 バレないよ。

 ここ東京だもん。

 ぜんぶ、ほどいて。



 時は流れ翌年の7月21日。私は東京の大学の図書館で勉強していた。


 今は大学近くのマンションで一人暮らししてて、夏休みに入ったばかり。


 勉強は最初、氷雅ひょうがお兄ちゃんの“本物の妹”になる為にしてたけど、


 ベランダで別れてからは月沢つきさわくんのことを“怜王れおくん”って呼ぶ練習しながら約束の再会を叶える為に更に猛勉強して、

 なんとか東京の大学の文学部の1年生になれた。


 ここまで頑張る事が出来たのは氷雅ひょうがお兄ちゃんと怜王れおくんのおかげ。


 夏休みなんだから部屋で勉強すればいいのに、クセで図書館に来てしまう…。


 一人で勉強するのも寂しいのもあって、周りに誰かがいると、ホッとしたりする。


 それに…、


 外に出れば怜王れおくんに会えるかもしれないから。


 ベランダで別れてから怜王れおくんスマホ変えたみたいでやり取り出来なくなって、

 氷雅ひょうがお兄ちゃんとは総長引退式を最後に繋がらなくなったみたい。


 夜野やのくん、三月みつきくん、夕日ゆうひちゃんの3人は高3の夏に一度怜王れおくんに会いに東京に行ったみたいだけど、

 高校にはあんまり通ってなくて、マンションも変わってて結局会えなかったらしい。


怜王れおくん…」

 私はノートに伏せ寝する。


 会えなくなってからもう2年。

 期待するだけ無駄だって分かってるのに。


 私の両目が潤む。


 ねぇ、怜王れおくん、今、どこにいるの?

 話したいこと、いっぱいあるよ。


 私は顔を上げ、ふと図書館の壁の時計を見る。


 あっ、もう19時!


「…閉館の時間だ。出よう」



「あぁ、外暑いな」

 私は真っ暗な空の下、孤独に裏道を歩く。


 図書館の中は涼しかったのに…。


 あ!? 黒のふわロングのウィッグ外せば涼しくなるかな? って……。


 私はふっ、と力なく笑う。

「もう被ってないんだった…」


 クセって怖い…。


 部屋に帰っても、もう、氷雅ひょうがお兄ちゃんはいない。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんのカレーが恋しい。


 夏休みだし、一度帰ろうかな…でも、もし、彼女出来てたら邪魔かも……。


 私は立ち止まって夜空を見上げる。


 今日は満月のはずなのに雲に隠れてて見えない。


「寂しいな…」


「だったらさ、俺の姫になんない?」


 え?


 私は振り返ると目を見開く。


 闇眠やみねむりと背中に金色の字で書かれた紫の特攻服を着た男の子が立っていた。


 暴走族!?

 …あれ? アッシュグリーンの髪…どこかで見た気が……。


 私はハッとする。


  あっ、もしかして――――。


「東京支部のナンバー3の…風浦かざうらくん…?」


「当たり。今はもう18で総長だけどね」


「総長!?」


 しかも18…私より一つ年下だったんだ…。


月沢つきさわは? 一緒じゃねぇの?」


「あ……」

 私は言葉に詰まる。


「族辞めたのはてっきり、あんたの為だと思ってたけど違ってたんか」


「うん。もう2年前の夏に別れたし…」

「じゃあ私、行くね…」


 風浦かざうらくんの右手が伸び、

 ふわロングの金髪のサイドの真っ直ぐ編み込んで三つ編みにした毛先を結んだゴムのリボンを上から掴まれる。


「俺の姫になんない? って言ったの、シーの時も今も本気なんだけど」


「え……」


「あいつと別れたんなら俺と付き合ってくんない?」


 どうしよう、本気の目、してる……。

 断らなきゃ…でも総長だし下手に断ったりしたら何かされるんじゃ……。


 あっ……リボンのゴム、外されそう。


 怜王れおくん――――。


 雲に隠れていた兎がいそうな、まんまるで大きな満月が姿を見せる。


 夏の夜空の星々がキラキラと希望に満ちあふれ、満月と共に美しく光り輝く。



「…悪いけど、ありすは俺の姫だから」



 え、あ、この声は……。


 ポロッ…。


 光が浮かび、私の頬をこぼれ落ちる。


「おお、月沢つきさわじゃん。久しぶり…」


 白色のTシャツに黒のスキニーパンツを穿いた月沢つきさわくんは元2代目総長たる冷気を放ちながら風浦かざうらくんを睨み付けた。


 あ、髪から手が離れ……。


「マジになんなよ。悪かったな」

 風浦かざうらくんは謝ると私を見て切なげに笑う。


「幸せにな」


 風浦かざうらく… あ、行っちゃった……。


「…なんで東京でも裏道通ってんだよ。危ねぇだろ」


怜王れおくん…やっと…会えた……」


 私は崩れ落ち、ぺたん、とその場に座り込む。


「…おい! あり…」


 もう、涙が止まらない。

 声にならない。


 怜王れおくんは私の前にしゃがむ。


「夢…?」


 しゅるっ。

 怜王れおくんはリボンがついたゴムを取った。


「…夢じゃねぇよ」

「…お前のリボンほどくの、俺だけだから」


 怜王れおくんは私を抱き締める。

 私も抱き締め返す。


 この温もりは夢、じゃない。


「…怜王れおくんって…」


「いっぱい…呼べるように練習した…」


「…そう。髪、金髪のままなんだな」


「うん、ありのままの自分でいたいから」


「…………」

 怜王れおくんは黙る。


怜王れおくん?」


「…ちゃんと考えてから答えろよ」


 怜王れおくんはそう言うと耳元で甘く囁く。



「…今から俺ん家来る?」



「行く」


「…即答かよ」

「…俺と関わるとまた今みたいに狙われてヒドイ目に合うかもしれねぇよ?」


「それでも行く」

「もう離れないから」


 怜王れおくんは私の後ろ髪に触れたまま強く抱く。


「…俺も、もう一生、離す気ねぇわ」

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