今日、いい子をやめました。

氷雪 雨

『いい子』は今日も、黙って笑う

こんな人生……もうやめたい。


それが、私の唯一の願いだった。

誰にも本当の私なんて期待されていない。

ただ、“ちゃんとしてる子”でいることだけが求められている気がした。

頑張っても、特別な才能なんてない。ただ、みんなについていくので精一杯。


今日も息を吸って、吐いての繰り返し。

憂鬱な足を引きずって学校の門をくぐる。


特に友達もいない私は、誰と話すこともなく教室に入り、窓の外を眺めた。

ガラス越しの笑い声が、まるで別の世界みたいに遠く聞こえる。

私にはもう、「青春」って言葉が似合わない。


「はぁ……」


深いため息をつき、机に顔を伏せた。


「黒羽さん。ちょっといい?」


先生の突然の呼び掛けに、胸がきゅっと縮まる。


「は、はい?なんでしょうか?」


「この荷物を運ぶの、手伝ってほしいの。今、時間ある?」


先生の手には、重そうな荷物があった。


「大丈夫です。どこに運べばいいですか?」


「1階の会議室までお願いできるかしら。重いから、気をつけてね」


「わかりました」


荷物の重さにふらついたけれど、なんとか踏みとどまりながら会議室へと向かう。


「よいしょっと……」


荷物を置き、会議室を出た。

教室に戻る途中、職員室の前から先生たちの話し声が聞こえてきた。


「やっぱり黒羽さんって、“いい子”ですよね〜」


「ですよね〜。提出物の期限はちゃんと守るし、校則もきっちり守ってる。学級委員長としての自覚があるって感じしますよね〜」


「……っ」


先生たちの声に、心の奥で何かがきゅうっとしぼんでいく。

うっすらとした期待の影が、重くのしかかってくる。


その言葉を聞かなかったことにしようと思って、足早に教室へ戻った。

自分の席に沈み込んだ瞬間、胸の奥にたまっていた何かが、静かにこぼれ落ちていくようだった。

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