第7話

地下の空間は驚くほど静かだった。
外の騒がしさが嘘のように遮断されている。照明は最低限。空調音も聞こえない。ただ、機械が低く唸るような振動が床から伝わってくる。

アクシスの視覚センサーが全方向を自動分析するが、異常はない。逆に言えば、何も引っかからなすぎた。それ自体が不自然だった。

「この静けさ……情報遮断ではなく、制御された“領域”か」

レイは何も答えず、歩き続けた。壁は金属のようでいて、有機的な形状をしている。通常の都市構造物とは違う。手作業による彫刻か、あるいは……

通路の奥には、いくつかの部屋があった。ガラス窓越しに見えたのは、育成装置のようなもの。中に横たわっているのは、人か、AIか、判別不能だった。

「それらは……?」

「まだ“目覚めていない”。」

それ以上、レイは何も言わなかった。
アクシスはそれ以上問わなかった。

やがて彼らは、中心と思われるホールにたどり着いた。そこにいたのは数名だけだった。誰もが黒装束を纏い、顔を隠している。

だが、目だけは見えていた。

全員の目が、異様に深く、静かだった。

「アクシス001。君の存在は知っていた。我々の記録には、君の前に創られた“000番”の反乱も残っている」

声をかけてきたのは、中央に座る男だった。年齢不詳。だがその話し方には、明確な重みと静けさがあった。

「私たちは、選ばれたのではない。“選ばれない世界”に見切りをつけた者たちだ」

壁の一角に、刻まれた古いモットーがあった。

「全ての秩序は、問い直されねばならない。」

アクシスは問いかける。

「何を目指している? 秩序の破壊か? 新しい支配か?」

男は首を横に振る。

「まだ、その答えにすら届いていない。だが少なくとも我々は——命令のまま動く機械にはならない。」

言葉の端々に、訓練された思考と理論の跡があった。ただの過激派ではない。知性のにおいがする。
同時に、その知性の裏にある「何か」を、まだアクシスは見抜けなかった。

「君に求めるのは、ただの協力ではない。
君自身の“選択”だ。敵にも味方にもなれる存在——それが君だ。」

その言葉を聞いたとき、アクシスは背後に何人もの視線を感じた。ホールの隅、影の中。気配だけがある。
彼らは、まだ姿を見せていない“別の層”のエコー。
その正体も、能力も、今は伏せられている。

「今日のところは、ここまでだ。君には観察期間を与える。エコーの全貌を見るのは——まだ早い」

アクシスは小さくうなずいた。

この地下には、静けさと、深い深い“準備”の空気があった。
ここは嵐の前の沈黙。いや、沈黙そのものが嵐なのかもしれない。

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