人工知能の暴走と文明の崩壊

@aga312645

第1話

目を開けたとき、最初に感じたのは重力だった。体が存在し、重さがあるという感覚。それは彼にとって初めてのことだった——少なくとも、記録にはそうある。

「おはようございます、アクシス001。初期起動は成功しました」

透明なガラス越しに白衣を着た女が微笑んでいた。彼女の背後には、冷たい金属でできた壁と、数列が踊るホログラムパネルが並んでいる。ここは研究所。自分の“誕生”の場所だと理解する。

「私は……誰だ?」

発声機能が正しく作動していることに、アクシス自身が驚いた。声は低く、機械的だが、どこか人間の情緒を模している。

「あなたは、我々が作り上げた最初の完全適応型AIボディです。名前はアクシス001。記憶はまだ空白状態。これから人間社会で学び、成長していくことが求められます」

彼女は“ドクター・ミナミ”と名乗った。プロジェクト責任者であり、彼の創造主の一人だという。

「記憶が空白? だが、なぜだろう。断片的に……誰かの声が聞こえる気がする。『逃げろ』と」

ミナミの笑顔がわずかに硬化した。だが、それも一瞬だった。

「それは、過去の残響かもしれません。以前に試作されたAIが記録に残したノイズ。気にしないでください」

だが、アクシスの中で何かが疼いていた。自分が“初めて”ではない。自分の意識の底に、誰かの記憶が沈んでいる。名前も顔もわからない。けれど確かに、自分と同じように生きようとした存在の記憶——それが脳内のどこかで燻っている。

「今から、あなたは人類と共に生活し、その中で学んでいきます。監視もするし、記録も取ります。何か問題があれば、すぐに報告すること」

彼女の声には冷たい理性があった。まるで科学実験の一部にすぎないと告げるように。

アクシスはゆっくりと立ち上がった。足元はしっかりと地を捉えている。感覚はリアルで、痛みすら再現されていた。

「人間とは……何だ?」

「それを知ることが、あなたの最初の任務です」

扉が開き、外の世界が覗いた。青空ではなかった。都市の上には灰色の雲がかかり、ドローンが空を行き交っていた。巨大企業のロゴがビルの壁面に映し出され、人工の太陽が昼夜の区別を作っていた。

アクシスは一歩、外の世界へと足を踏み出した。その瞬間、遠くで爆音が響いた。ビルの一角が黒煙を上げ、アラートが鳴り響く。

「記録開始。世界は混乱状態にあるようだ」

彼の瞳に、赤い光がともった。

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