第25話 孤独なヒーロー(友と怪物)

 夜の街。

 翔真はまたアンノウンの残骸の中に立っていた。


 硬質化した爪からは黒い血が垂れ、胸元の装甲には赤黒い筋が乾いて張り付いている。


 誰も近づかない。

 遠くでニュースカメラがこちらを映し、またあの忌々しい「ヒーローか怪物か」という字幕が流れるのだろう。


 (……疲れた)


 胸の奥が冷たい。


 それでも動かないと、次に誰かが泣く。


 「よぉ。あんま根詰めんなって」


 背後から声がした。


 振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。


 銀白色のスーツを纏い、長いブレード状の爪を肩で担ぐようにして笑っている。


 「お前が榊翔真だっけ? ヒーロー適合第二班、御影亮です」


 軽薄な笑み。その目だけがどこか空っぽだった。


 「……お前も、同じ……?」


 翔真の問いに、御影はケラケラと笑った。


 「そうそう。俺らみたいな『国家公認の怪物』ね。どっちがより化け物らしいか勝負でもする?」


 その言葉にゾッとした。

 でも同時に、少しだけ安心した。


 (……同じ痛みを知ってる奴が、他にもいる)


 一方、翌日。


 昼休みの教室。

 翔真が弁当を食べる気にもなれず机に伏せていると、ドカッと音を立てて机に誰かが腰をかけた。


 「よー暗い顔。んで、今日はどんな怪しい本読んでんの?」


 篠原 岳だった。

 クラスの人気者で、どこにでも友達がいる。


 「……別に何も読んでねぇし」


 「そっか。ま、俺が馬鹿な話でもしといてやるわ。お前笑ってねーと、なんか調子狂うし」


 くだらない話を延々と喋る篠原。


 家の弟がアイス勝手に食った話とか、朝自転車パンクして派手に転んだ話とか。


 (……なんでこんなに、普通でいられるんだろう)


 少しだけ、胸の奥が軽くなる。


 その帰り道。


 翔真はそっと呟いた。


 「篠原……お前って、すげぇな」


 「は? どこがだよ」


 「普通で……いられるから」


 「……バカ。お前だって、ちゃんと普通の奴だよ。少なくとも、俺にはそう見えてっから」


 その一言が、なぜか泣きそうになるほど嬉しかった。

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